II-P-52
稀有な経過で死亡したEisenmenger症候群の 1 剖検例
東京医科歯科大学医学部小児科1),東京医科歯科大学生体材料工学研究所システム研究部門制御分野2)
細川 奨1),今村公俊2),佐々木章人1),脇本博子1),土井庄三郎1)

【はじめに】最近では大きな心室中隔欠損症の放置によるEisenmenger症候群は皆無に等しい.本症例は33歳時に不明熱から腎不全に至り,肺病変とは無関係と思われる稀有な経過で死亡した.30年以上にわたる自然歴を紹介し,剖検病理標本の検討を加えたい.【症例】33歳男性.出生時よりlarge VSD with 21 trisomyと診断され経過観察となった.Eisenmenger症候群に移行し,慢性右心不全,チアノーゼ性腎症,多血症や高尿酸血症を呈するようになっていった.乳幼児期は気道感染を繰り返したが,学童期は順調に経過した.20歳以降原因不明の腹痛を繰り返し,在宅酸素療法を開始した.胸痛や呼吸苦のため入院した経歴はあるが,検査上明らかな肺梗塞や血痰の症状はなかった.ただし無症候性の脳梗塞が偶然に発見された.30歳頃より何度か肺血管攣縮によると思われる発作的な低心拍出症候群の症状を呈していた.33歳時に頭痛と軽度の呼吸苦から入院しいったんは軽快したが,1 週間後より原因不明の高熱,腹痛,下痢症状が出現した.急性胃腸炎と考え各種抗生剤も使用したが薬剤抵抗性で解熱しなかった.在宅酸素療法開始時より腎機能Ccrは30%台と低下していたが,明らかな進行は認めなかった.しかし今回は比較的速やかに腎機能が増悪し,利尿剤にも反応せず無尿となり,肺水腫および代謝性アシドーシスが進行し死亡した.病理解剖では中等度肺高血圧症の所見(肺胞隔の繊維性肥厚,肺胞内の浸出液の貯留,H-E分類では 3 度)と,腎の糸球体腫大とうっ血を認めたが高度のチアノーゼ性腎症の所見はなかった.また発熱の原因は不明であった.【考察】肺血管攣縮による低心拍出症候群,呼吸器感染症による呼吸機能の増悪やチアノーゼ性腎症の増悪が予測される死亡原因であるが,剖検所見からはそれほど強い肺血管,肺や腎病変が示唆されず,検討の余地がある.

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