III-P-1
正常胸腺の異常腫大による右肺血流減少に対しステロイド投与を行い改善を認めた,単心室・肺動脈閉鎖の 1 例
埼玉医科大学小児心臓科
石戸博隆,先崎秀明,小林俊樹,松永 保,竹田津未生,岩本洋一,熊倉理恵

【背景】Fontan手術を目指す患者において肺血管の成長は極めて重要なポイントであるが,さまざまな要因により容易に障害され得る.今回われわれは正常胸腺組織の異常腫大による右肺圧排により右肺全体の血流低下を来した症例を経験し,この症例にステロイドを投与し速やかな肺血流の改善を認めたので,多少の文献的考察を含め報告する.【症例】現在 6 カ月,右側相同・右胸心,右室型単心室・共通房室弁・肺動脈閉鎖・総肺静脈還流異常,セントラルシャント術後の男児.外来での経過観察中SpO2の低下傾向・エコー上のシャント狭小化を認め,同時期より胸部単純撮影にて右肺全体のつぶれた所見を認めた.4 カ月時シャントのバルーン拡張術目的に入院.肺動脈平均圧は 8mmHgと正常範囲で,肺動脈造影にて左右肺動脈主幹の発育は良好ながら,右肺末梢全体の血流不良が疑われた.肺血流シンチグラム上,バルーン拡張術後の左右肺血流比はR:L = 31.2:100(2 カ月時は59:100)と明らかな右肺血流低下を認めた.胸部CT上大きく発達した正常胸腺による右肺全体の圧排を認めたが,異常腫瘤・無気肺・主気管気管支の異常等は認めなかった.放置すれば右肺血管床の発育に悪影響を及ぼすと考えられ,predonisolone 1mg/kg/dayの投与を開始,2 週間後より漸減.投与開始 4 週間後のX線では右肺所見の改善を認め,肺血流シンチグラム上血流比はR:L = 55:100と明らかに改善したため,ステロイド投与を中止し,その後の経過を観察中である.投与中高血圧・易感染性等の副作用は認めなかった.【考察】健常児ならば無視できる範囲の胸腺腫大で,無脾症の児の乳児期であり,各種感染症流行期のステロイド投与の是非は意見が分かれるところではあるが,肺血管床のimbalanceを招来する以前に対処する必要性に関しては論をまたない.今後はたとえ正常胸腺組織であっても血流に悪影響を来す場合を想定し,積極的に介入することが必要と考えられた.

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