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小児開心術での同種血輸血回避―カテーテル検査時の自己血採取の効果―
市立旭川病院胸部外科1),市立旭川病院小児科2)
大場淳一1),青木秀俊1),小西貴幸2)

【背景】成人の開心術では術前の自己血貯血などにより80%の症例で同種血輸血が回避できるが小児例では術前の自己血貯血が困難であるために同種血輸血回避率(以下,無輸血率)は高くない.【目的】予定手術日の 5 日前に行われる心臓カテーテル検査時に自己血を採取保存する方法が無輸血率の向上に及ぼす効果を検討する.【対象と方法】人工心肺使用下での開心根治術を予定している小児で,体重 9kg以上,ヘモグロビン10g/dl以上,かつ心不全や臓器虚血のない児が対象である.入院時から鉄剤を内服.手術予定の前週金曜日に心臓カテーテル検査を行い,9ml/kgの自己血を採取し液状保存する.エリスロポエチンを250単位静注する.【検討項目】体重別に無輸血率を算出した.比較の対象として上記の方法を導入する直近の連続50例のデータを採用した.【結果】1997年10月~2005年末に,15歳未満の開心術症例107例中,上記の方法で自己血を採取できた症例は55例であった.疾患の内訳は心房中隔欠損症(ASD)15例,心室中隔欠損症(VSD)23例,ファロー四徴症(TOF)9 例であった.自己血貯血量は平均8.7ml/kgであった.自己血採取に伴う合併症は経験しなかった.上記の方法を導入する以前の体重別の無輸血率は 7kg未満で 0%,7~15kgで 0%,15~20kgで33.3%,20~40kgで77.8%,40kg以上で100%であった.一方,上記の方法を導入した後の無輸血率は 7kg未満で 0%,7~15kgで63.6%,15~20kgで100%,20~40kgで88.9%,40kg以上で100%と無輸血率の向上がみられた.術式別ではASD,VSDのうち自己血採取が可能であった症例は全例無輸血であった.TOFでの無輸血率は67%であった.【結論】心臓カテーテル検査時の自己血採取により,小児開心術症例での無輸血率が向上した.無輸血手術を拡大するためのコストと長期的な効果,すなわち輸血合併症の減少効果を医療経済の観点から評価することが今後の課題である.

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