P-I-53
血管傷害モデルにおけるアンチトロンビンIII大量投与による効果
金沢大学小児科
石崎顕子,中山祐子,橋田暢子,山崎治幸,斉藤剛克,太田邦雄,小泉晶一

【目的】先天性心疾患や冠動脈病変の治療における経皮的血管形成術の進歩は著しいが,術後急性期の血栓形成とその後の新生内膜増殖による狭窄は依然として未解決の問題である.近年,DICや敗血症といった全身性の血管内皮傷害において,アンチトロンビンIIIの大量投与により炎症を抑制することが知られているが,その作用機序はまだ明らかではなく,局所的な血管内皮傷害に対する作用も不明である.若年マウス大腿動脈の血管傷害モデルを作成し,アンチトロンビンIII大量投与による急性期および中期の効果を検証した.【方法】全身麻酔下にマウスの尾静脈からアンチトロンビンIII(AT-III群;n = 8)または生理食塩水(生食群;n = 8)を静注し,その後大腿動脈へカットダウンにて0.014ガイドワイヤーを挿入した.術後72時間後,7 日後,14日後,28日後に大腿動脈を摘出し,凍結切片を作成.各種染色を行った.【結果】血栓形成はAT-III群では有意に抑制された(p = 0.035).生食群ではAT-III群に比べ術後72時間で血管外膜に多くの細胞が浸潤していた(p = 0.027).その多くはCD11b陽性細胞であった.術後 7日・14日・28日後では細胞浸潤に差は認めなかった.術後28日後の組織では,新生内膜・中膜の厚さや面積に差はなく,外膜も含め,細胞密度・SMA陽性細胞・CD11b陽性細胞の分布にも差は認められなかった.【考察】急性期(72時間後)の血栓形成と外膜への細胞浸潤は抑制された.しかし中期(28日後)では,両群間に差は認められず,血栓形成の抑制や急性期の炎症の抑制のみでは中期的なリモデリングには影響を与えないと考えられた.【結語】術前のAT-III大量投与は,血管リモデリングに影響を与えず,急性期血栓形成と外膜への細胞浸潤を抑制する.

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