P-I-60
Fontan手術における低侵襲人工心肺の有用性に関する検討
北里大学心臓血管外科
宮地 鑑,宮本隆司,井上信幸,鳥井晋造,三好 豊,山本信行,小原邦義

【目的】Fontan循環では,人工心肺による炎症性反応が肺循環に与える影響は非常に大きいと考えられている.われわれの施設では2001年より人工心肺回路の充填量の削減に努め,現在,8kg以上の症例では充填量を160mlまで低量化している.さらに2003年よりpoly(2-methoxyethylacrylate)(PMEA)でcoatingされた人工心肺回路を導入,生体適合性の向上に努めてきた.この低侵襲人工心肺のFontan型手術における有用性を術後炎症反応の観点から検討した.【対象と方法】1998年 8 月より2006年 8 月までの 8 年間に施行されたFontan型手術37例を対象とした.右室型単心室:19例,左室型:18例で,手術術式は心外導管:32例,lateral tunnel:5 例であった.段階的Fontan手術が27例(73%)に施行され,fenestrationを18例(49%)においた.手術年齢は平均30カ月(12~112カ月),体重は平均11.3kg(8.0~29kg),人工心肺時間は平均130分(60~281分)であった.この37例を充填量200ml以下でcoating回路使用群(M群:17例)と充填量250ml以上でcoating回路非使用群(C群:20例)の 2 群に分けて術中の体重増加比(%BWG),術中の最低血小板数,術後 3 日間のCRP最高値(p-CRP)を比較検討した.【結果】37例中,手術死亡・病院死亡はなかった.%BWGはM群の平均 + 4.1 ± 2.0%に対してC群では平均 + 5.8 ± 2.8%で,M群の方が有意に低かった(p < 0.05).最低血小板数はM群平均11.6 ± 4.4 × 10,000/mm3に対してC群では平均7.0 ± 2.9 × 10,000/mm3で,M群の方が有意に多かった(p < 0.001).p-CRPはM群の平均6.4 ± 3.5 mg/dlに対してC群では平均10.6 ± 3.5 mg/dlで,M群の方が有意に低かった(p < 0.05).【総括】人工心肺充填量の削減とPMEA coating回路の導入によって,Fontan型手術後の炎症性反応は軽減した.術後の全身浮腫も明らかに軽度で,低充填量生体適合性人工心肺はFontan手術後経過の改善に有用である可能性が示された.

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