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Fontan循環予備能評価の有用性と重要性について
埼玉医科大学小児心臓科1),小児心臓外科2)
先崎秀明1),岩本洋一1),石戸博隆1),松永 保1),竹田津未生1),小林俊樹1),加藤木利行2),岩崎美佳2),枡岡 歩2),天貝友美1),横手祐二2)

【背景】肺循環駆動圧である中心静脈圧(CVP)は,Fontan循環動態を端的に表す重要な指標であり,高いCVPはFontan循環不全を表すhallmarkである.しかしながら,無症状のFontan患者と同等の低いCVPを示しながら,臨床症状に差を認める(易疲労,運動後の浮腫,肝腫大等を呈する)症例が存在することは日常臨床上よく経験するところである.今回われわれは,安静時血行動態指標が同等でも,負荷に対する循環予備能の違いが存在し,それらが潜在する心機能不全や症状の有無と関連しているという仮説を検証した.【方法】Fontan術後患者のカテーテル検査時に,CVPが15mmHg未満の患者26人を対象に,心房位pacingに対する反応と安静時の血行動態指標,液性因子,臨床症状について比較検討した.pacing rateは安静時から20/分ずつ最大180/分まで増加した.【結果】われわれの以前の報告同様,Fontan患者においてはpacingによりCVPが有意に上昇し,血圧は有意に低下したが,その変化は症例により大きなばらつきを示した.安静時と安静時 + 40/分のpacing時でCVP,血圧の変化がともにそれらの中央値(それぞれ +2.5mmHg,-15mmHg)以下の群 9 例(A群)とそれ以外の群(B群)に分けて検討すると,血中BNPや,CVP,心拍出量をはじめ安静時の種々の血行動態,心機能指標に両群間で有意差を認めなかったが,pacingによる収縮性の増加はB群で有意に乏しく,拡張期圧の上昇はB群で有意に高かった.さらに何らかの心不全臨床症状を呈する割合はB群で有意に高かった(10 vs 47%,p < 0.05).【考察】Fontan循環動態の違いを識別するには,安静時血行動態指標のみでは不十分である.pacingに対するCVP,血圧の変動は,通常カテーテル検査で簡便に求められる指標であり,Fontan患者のより詳細な循環状態把握に非常に有用である.今後これら微細な違いが,予後に及ぼす影響,治療介入のもたらす効果について前方視的に検討する価値があると思われた.

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