P-I-88
合併症なく妊娠・出産した重症大動脈弁狭窄症の 1 例
鹿児島大学小児科
江口太助,上野健太郎,西順一郎,野村裕一,河野嘉文

【症例】弁口面積0.5cm2の重症大動脈弁狭窄症(AS)の19歳女性が妊娠を主訴に来院.経過に伴い体重増加(44kgから妊娠 9 カ月時に51kg),下大静脈径増大(最大16mm)がみられた.心拍数が増加(70→94bpm)し左室-大動脈圧較差も増大した(エコー評価:64→104mmHg).しかし,左室の拡張末期径や収縮能・拡張能は変化しなかった.呼吸困難,胸痛等の訴えはなかった.37週で全身麻酔下に帝王切開を行い体重2,528gの男児を出産した.分娩前後に問題はなかった.出産後は下大静脈径の縮小,心拍数低下,圧較差の軽減がみられた.【考案および結語】妊娠により循環血液量は32週ごろには50%の増加となる.さらに分娩時は陣痛の痛み・不安等からの交感神経緊張により10%以上心拍出量が増加する.子宮収縮で子宮血液が体循環へ移動し心拍出量の増加も来す(妊娠時の1.5倍).以上の変化を考えると重症ASの妊娠はhigh riskと考えられる.しかし,ASの母体死亡率17%は過去の報告であり,近年の報告では死亡率は低く 0~2%,妊娠中の合併症も10%程度である.ただ,重症ASの妊娠出産の経験や報告数はまだ決して多くはなく,実際の臨床現場においてはリスクばかりが強調されることも多い.本例は妊娠末期まで問題がなく,分娩に関しても過去の報告を参考に小児科から無痛分娩を勧めたが,麻酔科・産科が受け入れず,全身麻酔下の帝王切開が選択された.本例のような場合の分娩法の選択には多くの情報の共有が必要である.本例は妊娠前の生体弁置換術について保護者と相談していたが,予期せぬ早期の妊娠で今回の経過になった.思春期心疾患女性の管理指導上における反省点と考えられた.

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