A-II-9
乳児期に急性うっ血性心不全を呈する僧帽弁腱索断裂
福岡市立こども病院循環器科1),心臓血管外科2),自衛隊福岡病院小児科3),自衛隊呉病院小児科4)
千田礼子1, 3),成田純任1,4),石川司朗1),石川友一1),中村 真1),牛ノ濱大也1),佐川浩一1),角 秀秋2)

【背景】乳児期の僧帽弁腱索断裂は重症の急性左心不全として発症するが,まれな疾患のため呼吸器感染症として初期治療されていることがある.また,この時期の外科的介入,特に人工弁置換はサイズの問題があり非常に困難で手術には経験と高度な技術が求められる.【目的および対象】2002~2006年に当院が経験した僧帽弁腱索断裂の乳児 5 例(男/女 = 2 /3例)の臨床経過をまとめ報告する.【結果】発症は平均 7 カ月(4~11カ月)で,体重6.7kg(5.4~8.0kg).4 例は急激に生じた哺乳力低下・発汗・不機嫌等の心不全症状で,残り 1 例は川崎病退院後の初回外来時の心エコー検査で偶然診断された.3 例は基礎疾患なく,2 例は川崎病後(発症 1 カ月と 2 カ月,冠動脈病変なし)であった.心エコーで僧帽弁閉鎖不全(MR)Sellers 3 度/3 例,4 度/2 例,平均左室拡張末期径は145%N(98~188%),BWG症候群は否定的され,胸部X線写真上CTR 62%(58~66%)であった.術前の内科循環管理では,3 例に輸血を,2 例に人工呼吸器管理を施行した.全例,内科治療に抵抗し外科手術(肺水腫で緊急手術 1 例,待機的手術 1 例)を施行した.開心術時,僧帽弁前尖の腱索断裂が 4 例に,後尖の腱索断裂が 1 例に認められ,僧帽弁形成術(人工腱索 4 例)が施行された.術後平均17カ月(2 カ月~5 年)を経過した現在,全例生存し,心エコー上 4 例はMR 1/4度以下で,1 例のみ2/4度で抗心不全を目的にHOTを継続している.【考案】急性心不全を呈した僧帽弁腱索断裂の乳児 5 例をまとめた.川崎病罹患後まもない 2 症例が含まれていた.緊急の処置を要する本疾患の原因・機序は不明で,健常乳児に発症することがあり,呼吸器感染症と誤診される可能性がある.小児科医,特に小児循環器医は本疾患の存在に留意する必要がある.乳児期MRに対する外科治療として,人工腱索による弁形成術は有効と考えられる.

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