P-II-19
特発性肺動脈性肺高血圧症に対し内科的combination therapy後に生体肺移植を施行した 1 例
大阪大学小児科1),心臓血管・呼吸器外科2),社会保険中京病院小児循環器科3),東邦大学第一小児科4)
市森裕章1),小垣滋豊1),前川 周1),成田 淳1),那須野明香1),高橋邦彦1),吉田葉子1),南 正人2),松島正氣3),佐地 勉4),大薗恵一1)

【はじめに】進行性の肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対し,プロスタサイクリン(PGI2)製剤,エンドセリン受容体(ETR)拮抗薬,フォスフォジエステラーゼ(PDE)5 阻害薬を用いたcombination therapyを行うことで予後の改善を認めているが,最終的に肺移植を必要とする症例が存在する.今回われわれは,ETR拮抗薬を導入できず,その他のcombination therapy後に肺移植に至った小児例を経験したので報告する.【症例】13歳,女児.【現病歴】7 歳時の失神,息切れを契機に特発性PAHと前医で診断された.HOT導入するも数カ月後にNYHA 3 度となり,PGI2持続静注を開始し漸増した.PDE5 阻害剤を併用しいったん軽快した.その後病状が進行し,ETR拮抗薬を併用したが症状の改善を認めなかった.11歳時に喀血を認め,カテコラミン等を中止できず,生体肺移植目的に当院へ転院となった.両親をドナーとして両側生体肺葉移植術を施行した.術後は拒絶等大きな合併症はなく,現在はプレドニゾロン,シクロスポリン,ミコフェノール酸モフェチルにて免疫抑制を行っている.術後 1 年での心肺機能は,検査上明らかな異常はない.レシピエント肺をETAおよびETB受容体抗体にて免疫染色したところ,健常肺と比較してETA受容体の発現は肺動脈内皮で減弱していた.また,他のPAH症例で増強していたETB受容体の発現はみられなかった.【考察】PAHに対し,異なった作用機序をもつ薬剤の併用は,副作用を減らし効果を増強すると考えられ,さまざまな組合せの併用療法が検討されている.今回の症例ではPGI2とPDE5 阻害剤の併用が一時的に有効であった.ETR拮抗薬はPDE5 阻害剤の血中濃度を低下させるという報告があり,両者の併用時には注意が必要である.レシピエント肺でETRの発現が減弱していたことは,ETR拮抗薬が無効であった可能性を示唆していると考えられた.【結語】PAHに対してcombination therapyを必要とする場合は,患者に応じた薬剤の選択が必要と考えられた.

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