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Fontan手術 1 年後に蛋白漏出性胃腸症が発症し,ペースメーカ植込み術によって改善がみられた徐脈性接合部調律を伴った多脾症候群の 1 例
国立成育医療センター循環器科1),心臓血管外科2)
江竜喜彦1),金 基成1),進藤考洋1),横山晶一郎1),金子正英1),磯田貴義1),石澤 瞭1),関口昭彦2)

Fontan術後の蛋白漏出性胃腸症(PLE)は 4~11%に発症し,致死性の高い難治性疾患である.PLEに対し,さまざまな治療法が報告されているが,確固たる治療法は確立されていない.今回われわれは,Fontan術後 1 年でPLE発症し,ペースメーカ植込み術を契機に改善したと思われる症例を経験したので報告する.【症例】3 歳男児.診断:多脾症候群,両大血管右室起始症,肺動脈弁狭窄症,接合部調律.2 歳 7 カ月時に,Fontan術施行.術後早期の心拍数は60~80台.その 1 年後に全身の浮腫が出現し,アルブミンを投与していたが,低蛋白血症がコントロールできずに入院.入院時TP 3.9g/dl ALB 2.3g/dlと低下しており,全身に著しい浮腫を認めた.心電図上は接合部調律であり,心拍数は覚醒時60台,睡眠時30台と顕著な徐脈を示した.消化管蛋白漏出シンチグラムは陽性からPLEと診断した.入院後,高蛋白・低脂肪食療法,酸素療法,ヘパリンおよびミルリノンの持続点滴を開始,低蛋白血症の進行は抑制された.心カテーテル検査では接合部調律時の静脈圧は最大圧15mmHg,平均圧14.6mmHgと上昇しており,接合部調律による徐脈に伴う静脈圧上昇がPLE発症の主要因と判断した.これに対してAAIモードによるペースメーカ埋込み術(PR = 100/分)を施行し,その後児の全身状態が良好となり低蛋白血症はさらに改善した.消化管蛋白漏出シンチグラムも陰性となり,ミルリノン,ヘパリン中止後も症状の再発はみられなかった.【考察】徐脈が合併したFontan循環では脈拍依存性に静脈圧の上昇がみられ,PLEの危険因子となる可能性がある.また,接合部調律では特に静脈圧のピークが上昇しておりペースメーカによる脈拍のコントロールに加え,心房刺激による心房心室興奮シークエンスの回復が循環動態の安定に重要であると考えられた.

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