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乳児期術前ファロー四徴症における大動脈壁mechanical propertyと大動脈拡大との関係
埼玉医科大学小児心臓科
石戸博隆,先崎秀明,岩本洋一,松永 保,竹田津未生,小林俊樹,加藤木利行,天貝友美,渋谷麻子,長谷川裕美,宮田佳代

【背景】ファロー四徴症(TOF)術後の大動脈(AO)拡大には,術前のAOへの血流過剰といった血行動態的要素の関与が示唆されているが,AO壁自体の先天的構造異常が原因である可能性も指摘されている.われわれは前回,AO壁構造異常がAO壁硬度の増加をもたらすという仮説を検証し,TOF術後のAO壁弾性は低下しておりAO拡大と密接に関係していることを報告した.今回われわれは,AO拡大に対するAO壁弾性変化の病態生理学的意義をさらに明らかにするために,壁弾性変化が術前の乳児期より存在し,血行動態とは独立してAO拡大と関連しているかを検討した.【方法】心臓カテーテル検査を施行したTOF術前の患者15例(平均年齢4.5 ± 0.2カ月)において,引き抜き圧波形とその距離から,上行大動脈壁の硬さの指標としてのpulse wave velocity(PWV)を求め,近位部AO壁弾性を評価した.さらに,PWVと超音波で計測した上行大動脈径との関係をAOへの血流負荷(体血流量)を考慮に入れて検討した.【結果】TOF患者のAO径は,年齢標準値の135 ± 25%を示し,乳児期より拡大を示した.またPWVの平均値は,これまでわれわれが報告した正常対象と考えられる 4 歳児の平均とほぼ合致し,乳児期早期からAO壁弾性低下がみられることが示唆された.さらに,AO径は体血流量を考慮に入れた多変数解析にて,PWV,BSA,体血流量と有意な正の相関を示し(AO径 = 8.1*BSA + 0.01*PWV + 0.33*体血流量係数 + 9.1,p < 0.05),AO壁弾性低下が,血行動態要素とは独立してAO拡大に関与していることが示唆された.【考察】TOFのAO壁の弾性は乳児期より低下しており,AOへの血行動態上の負荷とは独立して,上行AO径の拡大と関連している.これらは,AO壁弾性変化が一義に存在し,AO径拡大に関与していることを強く示唆する所見であり,動脈壁組織学的変化の指標として簡便な代用指標となる可能性がある.

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