C-III-1
成長ホルモン(GH)療法を行った乳児期発症の特発性拡張型心筋症(DCM)―長期効果と予後について―
弘前大学小児科1),保健学科2)
江渡修司1),北川陽介1),上田知実1),佐藤 啓1),大谷勝記1),市瀬広太1),佐藤 工1),佐藤澄人1),金城 学1),高橋 徹1),米坂 勧2)

【緒言】DCMに対するGH療法は心筋アポトーシスの抑制と収縮エネルギー効率の改善により心機能回復に寄与することが知られている.しかし,その有効性について一定の知見はいまだ得られておらず,遠隔期を含む長期効果に関する報告も乏しい.今回われわれは乳児期発症のDCMに対しGH療法を試み,臨床症状・心機能パラメータの改善と投与 4 年後の現在も安定した経過を得ている 1 例についてその臨床効果を検討した.【症例】6 歳女児.5 カ月時に多呼吸,体重増加不良にて発症し特発性DCM,うっ血性心不全と診断.ジゴキシン,ACE阻害剤,利尿剤による抗心不全療法開始,急性症状は脱したが血中BNP値(BNP),左室短縮率(FS)の心機能パラメータは改善傾向なく,PDE III阻害剤追加併用も奏効しなかった.DCMによる慢性心不全例として 2 歳 1 カ月時よりGH療法をFazioらのプロトコルを参考に0.083mg(= 0.25国際単位)/kg,週 4 日分割投与にて 6 カ月間施行した.副作用と思われる症状・検査所見なく,本療法開始前後でのBNP(pg/ml),FS(%)はおのおの1,000前後→500前後,9→13.5に改善,心不全症状は軽快し活動性を認めた.本療法 4 カ月終了時の右室心内膜心筋生検所見は心筋細胞肥大・大小不同・空砲変性・fineな間質線維化等DCMに合致する組織変化を呈した.2 歳 8 カ月(本療法終了 1 カ月後)時に同様の薬物療法継続し,外来療法に移行した.以降FSは同程度もNYHA I~II,BNPは70~100pg/mlを推移,心不全の急性増悪なく経過順調である.【考察】本例は通常の抗心不全療法が著効せず,さらなるoptionとして施行したGH療法が外来療法への移行を可能にし,投与終了後 4 年を経過した現在も臨床症状・心機能パラメータともに良好にコントロールされている.GH療法は短期効果のみならず,長期効果も有している可能性があり,今後GH療法に際し予後・治療管理方針を決定するうえで心筋病理変化を含めた各パラメータの継続的な検討が必要である.

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