会長賞候補 2 
心外膜原基由来細胞を制御するテネイシンの検討
東京女子医科大学循環器小児科1),三重大学修復再生病理学2)
宮川-富田幸子1),今中-吉田恭子2)
冠血管は,発生初期の心臓静脈洞付近にできる中皮性横中隔組織由来の心外膜原基(proepicardium:PE)より形成される.PEは心筋を直接被う心外膜を形成するほかに,線維芽細胞,冠血管の平滑筋細胞,内皮細胞などに分化するといわれている.細胞外基質糖タンパクであるテネイシンC(TNC)は一般に胚発生のような形態形成,成体での癌浸潤,創傷治癒,組織再生の際,特定部位に一時的に発現し,上皮-間葉/間葉-上皮細胞転換や細胞の運動制御に関与し,特に神経堤細胞の遊走を促進するといわれる.そこで,PEウズラ-ニワトリキメラ胚,心臓神経堤ウズラ-ニワトリキメラ胚,心臓神経堤焼灼ニワトリ胚を用いてPE由来細胞による冠動脈形成時のTNC,神経堤細胞の役割を検討した.Manner(1993)の方法に従って作成したPEウズラ-ニワトリキメラ胚でPE由来ウズラ細胞は,一層の細胞からなる心外膜の一部を形成し,5 日胚の心外膜下では上皮-間葉転換を起こして 6 日胚で心筋層内に移動し,8 日胚で心内皮の一部も形成した.同時に血管内皮細胞に分化して原始冠血管網を形成しながら 9 日胚では大動脈基部に達した.PE自体はTNCを強く発現したが,PE細胞が心臓表面に接触するとすぐに発現低下し,心外膜下でPE細胞が上皮-間葉転換する際に一過性にTNC発現が認められた.またPE細胞由来の原始冠血管網が大動脈基部に貫通する前,冠動脈開口部付近にTNC発現がみられたことから,TNCは冠動脈が大動脈基部の正しい位置に開口するのを誘導する可能性が考えられたが,心臓特異的TNC過剰発現マウスでは冠動脈に明らかな異常を認めなかった.心臓神経堤細胞は冠血管開口時には大動脈基部には到達せず,開口した後で冠動脈周囲の神経節形成および冠動脈内皮細胞の一部に関与することが明らかとなった.


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