会長賞候補 4 
無脾多脾症候群における見過ごされてきたリスクファクター―脊柱による肺静脈の圧迫狭窄―
大阪府立母子保健総合医療センター小児循環器科1),心臓血管外科2)
稲村 昇1),萱谷 太1),北 知子1),河津由紀子1),川田博昭2),岸本英文2)
【背景】肺静脈形態は無脾多脾症候群のFontan手術成績を左右する重要な因子である.しかし,心房還流型の肺静脈(PV)を呈する無脾多脾症候群のPV形態は明らかにされていない.【目的】心房還流型PVの解剖学的特長と臨床経過に与える影響を明らかにすること.【対象と方法】Fontan candidateの無脾多脾症候群50例にCTを行った.検査時年齢は 1~53カ月,平均5.9カ月.12例が多脾症,38例が無脾症である.撮影装置は東芝社製TCT 900SとTSX 101Aを使用した.1mm間隔の画像を作成し,PVと周辺臓器との関係を調べた.【結果】27例で左右PV下葉枝のorificeは脊柱の左右に分かれ,左右orificeの中心は脊柱の前面に位置していた(central type).一方,他の23例で左右PV下葉枝orificeは脊柱のどちらか一方に偏位しており,片側のPVが脊柱を乗り越える形態を呈していた(distant type).central typeは心尖側のPVが心尖と同側の心房に還流していた.distant typeは心尖側のPVが対側の心房に還流していた.PV狭窄はcentral typeで12例(44%)に診断し,5 例は両側の狭窄,7 例は片側の狭窄であった.distant typeは12例(52%)にPV狭窄を診断し,すべて左右どちらか片側の狭窄であった.狭窄の原因は両側狭窄が心房接合部の狭窄であったのに対し,片側狭窄はPVが脊柱,下行大動脈と拡大した心房によって挟まれることが原因であった.両側狭窄の 5 例中 1 例が生存したが,Fontan術は困難な状況である.片側狭窄と診断した19例中 9 例が生存し,うち 7 例でPV狭窄に手術を行い,Fontan術を完了した.PV狭窄を認めなかった26例は22例が生存し,15例でFontan術を完了した.【結語】心房還流型PVの無脾多脾症候群にもPV狭窄を呈する例が存在し,PV狭窄は生命予後に影響していた.distant typeは脊柱,下行大動脈,心房で圧迫されやすい形態であった.このPVの圧迫狭窄はFontan candidateである無脾多脾症候群の見過ごされてきたリスクファクターである.


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