I-S1-6
気管・気管支狭窄症の人工呼吸管理
国立成育医療センター手術集中治療部
中川 聡

自発呼吸の吸気のときに呼吸筋が作り出す力(Pmus)は,以下の式で与えられる.〔Pmus = R×(dV/dt) + (1/C)×V〕(式 1).ここでRは気道抵抗,dV/dtは流速,Cはコンプライアンス,Vは 1 回換気量である.気管・気管支狭窄症は気道抵抗の高い病態であるので,式 1 ではRが非常に大きな値になっているために,それに打ち勝つための大きいPmusが必要な(呼吸努力が強い)病態と考えることができる.次に,自発呼吸がない状態での人工呼吸の吸気時の気道内圧も同様に考えることができ,気道内圧(Paw)は,〔Paw = R×(dV/dt) + (1/C)×V〕(式 2),で与えられる.すなわち,気管・気管支狭窄症では,式 2 でRが高い病態であり,そういった病態に人工呼吸を行う際には,高いPawを用いて人工呼吸管理を行うことが要求される.次に,時定数を考える.時定数(τ)は次の式で与えられる.〔τ = R×C〕(式 3).Rが大きい病態では,τも大きくなる.これは,吸気と呼気とに絶対的な時間が必要であることを意味し,人工呼吸では吸気時間と呼気時間を十分にとる,すなわち,人工呼吸回数は極端に少なくして管理をすることが要求される.人工呼吸から離脱する際には,人工呼吸が必要になったおおもとの病態の改善が要求される.すなわち,気管・気管支狭窄症ではRが十分に低下することが求められる.先天性心疾患に伴う気管・気管支狭窄症では,心臓や大血管による圧迫病変であれば,心臓手術により狭窄が解除すれば人工呼吸からの離脱に向かえる.一方,気管・気管支狭窄症が独立して存在する場合は,気管や気管支に対する手術により気道の内径を太くすることが要求されることがある.以上の点について実例も交えて解説する.

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