I-B-4
ワーファリンを内服しないフォンタン術後患者の凝固線溶系
福岡市立こども病院循環器科1),新生児循環器科2),心臓血管外科3)
佐川浩一1),石川司朗1),石川友一1),中村 真1),牛ノ濱大也1),総崎直樹2),中野俊秀3),角 秀秋3)

【背景】基本的に過凝固状態にあるフォンタン循環にとって,微小血栓でも長期的に肺血管床に悪影響し,本循環を破綻させる可能性がある.これまでに延べ500例以上の右心バイパス術後患者に対して抗血小板(アスピリン),心筋保護(ACE I,ARB,β遮断薬,抗不整脈薬)とともに抗凝固(ワーファリン)療法を施行し,明らかな血栓塞栓症例を経験していない.しかし,種々の理由で抗凝固療法が長期に中止・中断例も経験している.今回,この症例の中断理由,および凝固線溶系の変動について検討した.【対象・方法】当院でフォンタン手術を受けた上記 6 例(術式/例数:APC/1 例,ラテラル・トンネル/2 例,心外導管/3 例)を対象とした.検査項目はd-ダイマー,FDP,TAT,PIC,トロンボモジュリン,PAI-1とした.【結果】ワーファリンを服用しなかった理由として,怠薬 1 例,学校が出血を恐れた 2 例,本人の希望 2 例,頭蓋内出血の既往 1 例であった.怠薬の 1 例は倦怠感を訴えて来院し,上記検査項目の異常高値を確認した(d-ダイマー:7.μg/ml,FDP:12.μg/ml,TAT:3.4ng/ml,PIC:1.μg/ml,PAI-1:60ng/ml).ワーファリン等の治療再開により検査データの改善とともに症状も消失し後遺症なく,現在加療継続中である.ほか 5 例は無症状で,うち 4 例はアスピリンの服用は継続していたが,うち 2 例にTAT,PIC値の明らかな上昇を認めた(TAT ng/ml / PICμg/ml:4.2/1.3,17.9/1.4).【考案】フォンタン循環は生理的な循環に比べて明らかに安全域が狭い.脱水,感染症罹患時といった一過性の凝固亢進ばかりでなく,患者の加齢に伴う生理的な凝固亢進も考慮する必要がある.当科ではフォンタン手術が本格化した1993年以降,大きな合併症を経験していない.フォンタン循環患者のQOL維持には長期的な展望にたった管理が必要で,日常生活に関する本人および周囲への教育と抗凝固・抗血小板・心筋保護療法の継続が大切であると考える.

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