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ミトコンドリア呼吸鎖酵素複合体 1 欠損症と診断された心内膜線維弾性症の 1 例
秋田大学医学部小児科
小山 田遵,田村 真通,岡崎 三枝子

心内膜線維弾性症(EFE)は原因不明の小児心筋疾患で,予後不良とされている.診断は心内膜の膠原および弾性組織の増殖などの病理組織検査による.本症の多くは拡張型心筋症様の血行動態をとるが,新生児期発症例では拘束型心筋症様の場合もある.今回われわれは突然死を来した乳児の剖検心でEFEを認め,のちにミトコンドリア呼吸鎖酵素複合体(complex I)欠損症と診断された症例を経験した.本症の成因を考察するうえで有用と思われるので報告する.【症例】4 カ月男児.家族歴として 6 歳年上の兄に筋力低下,染色体異常(10p-)がある.4 カ月健診時に体重増加不良と筋緊張低下を指摘され近医で経過観察となった.その後哺乳量が減少し,約 3 週後には著明な心拡大(心胸郭比0.70),肝種大,および呼吸促拍を認め,精査・治療を目的に当科搬送.途中の救急車内で心肺停止を来し,蘇生術施行のまま当院に到着したが,到着時自己脈は触知せずその後の蘇生にも反応せず,同日死亡.病理解剖の許可をいただいた.【肉眼所見】左心房・左心室の著明な拡張と心内膜の肥厚あり.両肺に高度うっ血あり.心内奇形なし.肝は一様に脂肪肝を呈し腫大.【組織所見】左心室および左心房の心内膜は密な弾性線維の増生を伴い肥厚しEFEの像であった.ほぼすべての肝細胞に大滴性の脂肪滴の沈着がみられた.【酵素活性】心筋・肝組織ともにcomplex Iの著明な低下を認め,同欠損症と診断された.【考察】EFEの成因に関しては,胎児期の心内膜炎,ウイルス感染,無酸素血症,酸素過剰,あるいは遺伝要因などが考えられているがいまだ不明な点が多い.本症例はcomplex I欠損症を背景にEFEを合併したと考えられ,ミトコンドリアにおけるATP産生障害とEFE発症が密接に関連することを示唆していると思われた.

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