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大動脈後壁再建後に冠動脈移植を行う動脈スイッチ手術
京都大学医学部心臓血管外科1),小児科2)
池田 義1),村田 眞哉1),土井 拓2),馬場 志郎2),丸井 晃1),佐地 嘉章1),山崎 和裕1),仁科 健1)

動脈スイッチ手術においては冠動脈移植を適切に行うことが最も重要である.本邦では主肺動脈基部にtrap door法によって冠動脈移植を行った後,大動脈を再建する方法が一般的であるが,再建後の大動脈形態を想定しつつ冠動脈移植部位を決定しなくてはならない.より安全に冠動脈移植を行うために,われわれはまず大動脈の後壁の再建を行い,その後に冠動脈の移植を行う方法(Vouheの方法)を採用している.【方法】大動脈はST junctionの 2~3mm遠位で切離,主肺動脈は分岐部の1~2mm近位で切離する.原則的にLe Compte maneuverを行った後,大動脈遠位部と肺動脈近位部の後壁約半周を縫合する.この状態でまず 2 大分枝を有する冠動脈(Yacoub A型ならLCA,D型ならRCA)が分枝の屈曲を来さないような移植部位を決定し,原則としてtrap door切開を加えて移植する.残った冠動脈も同様に移植した後,大動脈前面の再建を完成する.【結果】現在まで13例に施行.冠動脈分布はYacoubのA型 9 例(うち 1 例はLCAが高位起始し縦に壁内走行),B型 1 例,D型 2 例,E型 1 例.いずれの型においても本法による移植が可能であり,心筋虚血などの合併症を認めなかった.縦向き壁内走行の 1 例で隔壁を切除したLCA orificeの再狭窄を来し,再手術を要したが(再手術時遠隔死),それ以外は良好に経過している.【考察】本法では移植部位決定時に再建後の大動脈形態がわかるので至適な移植部位の選択が容易である.大動脈縫合線にまたがる部位や縫合線より遠位側への冠動脈移植も容易であるため移植部位の自由度が拡大すると考えている.さらに大動脈前面の再建時に冠動脈カフ上部の余った組織を有効に利用できる.本法は欧米に比べ 1 施設当たりの症例数が少ない本邦においても安全に動脈スイッチ手術を行うために有用であると考える.

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