【はじめに】肺高血圧を伴う先天性心疾患では肺血管病変の有無が手術適応を決定する際に重要である．肺小動脈に血管内径と同じかそれ以上の中膜肥厚がある場合はextremely thickened media of small pulmonary arteriesと呼ばれ，こうした血管が肺小動脈全体の10％以上みられる場合は根治術の不適応とされている．今回，われわれは不可逆性の肺血管病変と考えられていたextremely thickened media of small pulmonary arteriesが自然軽快した本邦初症例を経験したので報告する．【症例】9 歳の女児．心雑音は指摘されなかったが，Down症のためスクリーニングの心エコーで心室中隔欠損症，動脈管開存を指摘され，4 カ月時にカテーテル検査を施行した．左室圧90/0/35 mmHg，右室圧85/0/35mmHg，肺動脈圧85/35/50mmHg，Qp/Qs 0.96と肺高血圧を認め，酸素負荷でもQp/Qs 1.51であった．肺生検の結果，IPVD（index of pulmonary vascular disease）1.0点，HE（Heath Edwards）分類 1 度と内膜病変は認めなかったが，extremely thickened media of small pulmonary arteriesを右肺に 3％，左肺に21％認めたため手術不適応と判断された．3 歳 6 カ月時の肺生検でもextremely thickened media of small pulmonary arteriesを右肺に 4％認め，約30％の肺小動脈に異常な平滑筋細胞の増殖があり，手術は施行しなかった．ところが，9 歳時の肺生検では，extremely thickened media of small pulmonary arteriesが完全に消失しており，IPVD 1.0点，HE分類 1 度であり，手術適応と判断された．今後，根治術を行う予定である．