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Marfan症候群,Loeys-Dietz症候群両者の臨床的特徴を備えたTGFBR2遺伝子異常症の 1 例
信州大学医学部小児医学講座1),遺伝子診療部2),国立循環器病センター研究所バイオサイエンス部3)
赤澤 陽平1),伊藤 直子1),元木 倫子1),清水 隆1),小池 健一1),古庄 知己2),森崎 裕子3)

【背景】Marfan症候群(MFS)は,骨格系,眼,心血管系症状を呈する常染色体優性遺伝の先天性結合組織疾患であり,FBN1,TGFBR1,TGFBR2遺伝子の変異が報告されている.Loeys-Dietz症候群(LDS)は,動脈の蛇行・解離,眼間開離,二分口蓋垂または口蓋裂を特徴とする多系統疾患であり,原因遺伝子はTGFBR1,TGFBR2である.今回,両症候群の特徴を備え,TGFBR2遺伝子の変異が検出された 1 例を報告する.【症例】12歳男子.【経過】先天性内反足.1 カ月,鼠径ヘルニア.7 歳,左眼網膜剥離.9 歳,左増殖性硝子体網膜症を発症,術前検索でValsalva洞の拡張を伴う上行大動脈拡張を指摘.12歳,右網膜剥離を発症し,手術目的に入院.【現症】(1)骨格系:重度の漏斗胸,長い手足,くも状指,重度側弯(40°),肘関節伸張制限,扁平足,手指関節過可動性,高口蓋,歯の密生,顔貌上の特徴(長頭,頬低形成,下顎後退,眼瞼裂斜下,眼間開離,二分口蓋垂).(2)眼科診察:眼軸長延長(23.5mm).(3)心血管系:Valsalva洞の拡張(38~40 mm)を伴う上行大動脈拡張,大動脈弁閉鎖不全,僧帽弁逸脱.インデラル内服中.(4)MRIにて腰仙部の硬膜拡張.(5)成長:身長151cm(0SD),体重30kg(-2.2SD).(6)発達:学習障害.【遺伝子解析結果】FBN1,FBN2,TGFBR1,TGFBR2の遺伝子解析を施行,TGFBR2において変異(c.1,564 G > T;p.Asp522Tyr)が検出された.【考察】本症例は,発端者としてMFSの診断基準(Ghent nosology)を満たしており,MFSと臨床診断できる.一方,胸腹部造影CTおよび頭部MRA上,主要動脈に蛇行・瘤は見いだされなかったが,眼間開離,二分口蓋垂はLDSの主徴候であり,内反足,精神遅滞もLDSにおいて合併し得る症状である.TGFBR2異常症には,臨床的にMFS,LDSの明確な鑑別が困難な症例が存在することが示唆された.

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