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デクスメデトミジンによる小児肺高血圧クリーゼの予防
慶應義塾大学医学部小児科
福島 裕之,潟山 亮平,玉目 琢也,古道 一樹,前田 潤,山岸 敬幸

【はじめに】小児肺動脈性肺高血圧(PAH)症例では,心臓カテーテル検査(心カテ)や中心静脈カテーテル(静脈カテ)挿入術などの際に,全身麻酔を必要とする.全身麻酔から覚醒する際の不穏状態や,強い疼痛刺激を誘因として肺高血圧(PH)クリーゼが惹起され,生命にかかわる危険性を伴うことがあり,その予防は重要である.α2アドレナリン受容体刺激剤である塩酸デクスメデトミジン(DEX)は,鎮静・鎮痛作用を併せもち,呼吸抑制作用が少ない特徴を有する.今回,小児PAH例の全身麻酔にDEXを用い,安全に心カテと静脈カテ挿入術を行うことが可能であった.【症例】特発性PAH + 心房中隔欠損症,9 歳女児.初回心カテ時,覚醒中に不穏状態となりPHクリーゼを発症した.この経験から,2 回目の心カテ時にDEX持続静注(0.5μg/kg/hr)を併用して全身麻酔を行った.その結果,穏やかに覚醒し,円滑に人工呼吸から離脱することができ,適度な鎮静状態で病棟に帰室した.DEXを漸減中止して 2 時間後に全覚醒し,PHクリーゼを予防することができた.同症例においてエポプロステノール持続静注療法導入のため,静脈カテ挿入術を計画した.麻酔導入後早期からDEXの持続静注(0.5μg/kg/hr)を開始するとともに,術後の疼痛軽減を目的として,加刀前にジクロフェナクナトリウム坐薬を投与し,作用持続時間の長い局所麻酔薬(ロピバカイン)を十分量使用した.2 回目の心カテ時と同様にDEXの漸減により穏やかに覚醒し,病棟帰室後も適度な鎮静が得られた.疼痛コントロールも良好で,帰室 2 時間半後にDEXを中止した.低血圧などDEXによる重篤な副作用は認められなかった.【まとめ】DEXを用いた全身麻酔は,小児PAH症例に対する心カテおよび静脈カテ挿入時に穏やかな覚醒と適度な鎮静をもたらし,PHクリーゼの危険性を軽減させるのに有効である.

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