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重症門脈肺高血圧患者に対する肝移植適応について
京都大学医学部小児科1),肝胆膵移植外科2)
馬場 志郎1),横尾 憲孝1),美馬 隆宏1),岩朝 徹1),鶏内 伸二1),平海 良美1),土井 拓1),上本 伸二2),中畑 龍俊1)

門脈肺高血圧は肝疾患に伴う進行性肺高血圧症で,最終的治療は肝移植である.しかし重度肺高血圧症例の周術期死亡率は高く,術前平均肺動脈圧が50mmHg以上は特に不良と報告されている.この原因の一つは,移植肝グラフトから大量の血液が右心系に再還流し,右心圧,肺動脈圧が上昇することである.以前よりKuoやKrowkaらによって門脈肺高血圧患者の手術適応について報告されてきた.その基準によると,平均肺動脈圧が36~50mmHgの患者に対しては,肺血管抵抗や心拍出量によって適応の有無が判断され,いわゆる手術適応のグレーゾーンとなっている.このグレーゾーン症例の手術適応基準として明確な基準値は肺血管抵抗,心拍出量のみである.しかし,肺動脈圧低下に対する積極的な治療にかかわらず,これらの値をクリアできない症例が存在する.われわれは過去にこのグレーゾーン患者 1 例に対して肝移植を行い良好な結果を得られている.症例は 6 歳 5 カ月女児,PGI2持続投与中である.52mmHgあった平均肺動脈圧がPGI2投与開始後38mmHgまで低下したが,肝移植直前のカテーテル検査で49mmHgと上昇していた.10ml/kgの生理食塩水によるacute volume challenge test後は平均肺動脈圧54mmHgであり,肺血管抵抗(5.05U・m2),心拍出量(7.73l/kg/m2)など,いずれの値も肝移植適応の面から有利とはいえなかった.しかし,BNPが低値かつ右室の拡張末期圧が10mmHg未満であったことより右心機能が良好で肝移植に耐え得ると判断し,肝移植を行った.結果,周術期に大きなトラブルなく,現在も外来経過観察中である.以上より,グレーゾーン症例に対する肝移植適応基準に右心機能の明確な数値化が必要であると考えられた.

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