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成分栄養剤長期使用によるセレン欠乏が原因と考えられた心不全の 1 例
千葉大学医学部小児病態学
建部 俊介,江畑 亮太,東 浩二,遠山 貴子,安川 久美

【背景】セレン(Se)は生体に必須の微量元素であり,その欠乏症は完全静脈栄養や成分栄養剤の長期使用により生じることが知られている.また近年,中国の風土病である克山病(セレン欠乏心筋症)の発症とウイルス感染との関連が報告されている.今回,セレン欠乏が原因と考えられた成分栄養剤長期使用中の児に発症した心筋症,心不全を経験したので報告する.【症例】2 歳10カ月の男児.主訴は顔面の浮腫と不機嫌.食道閉鎖,動脈管開存,気管軟化に対する手術歴あり.二度の心肺蘇生の既往あり.6カ月時より成分栄養剤のみを胃瘻から注入してきた.上記主訴で救急受診.明らかな感染兆候なし.顔面,四肢の浮腫を認め,体重は 1 カ月で 2kg増加していた.胸部X線でCTR65%,肺うっ血を認めた.UCGでLVEDV 190%N,LVEF 30%,左室内に10mm大の血栓を認めた.ECGは洞調律,左側胸部誘導でR波減高,虚血性変化はなかった.血液検査では炎症所見なく,凝固系は亢進,BNP 1,830pg/ml.心筋炎,心筋症の鑑別を進め,抗心不全治療を開始した.血栓は入院 3 日目に左室内より突然消失,塞栓(部位不明)を疑いtPAを投与した.その後血清Se値が感度以下(< 2μg/dl)と判明し,Se欠乏による心筋症,心不全と診断,Seの補充(ミネラル補充ジュース)を開始した.咽頭からはアデノウイルス 1 型が分離された.急性期治療により心不全は改善し外来管理となったが,血清Se値は 3 カ月後も感度以下であった.補充量の増加を目的に,市販のSe補充用タブレットに変更したところ 5 カ月目より上昇,安定した.【考察】Se含有の乏しい成分栄養剤長期使用により,心筋症,心不全を生じたと考えられた.その発症あるいは増悪因子としてアデノウイルスが関与した可能性があった.【結語】成分栄養剤長期使用中のSe欠乏に対し注意が必要である.

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