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巨大心室憩室を合併したと考えられる拡張型心筋症の 1 乳児例—組織ドプラおよび心筋ストレインによる心室壁内の残存心筋の評価
大阪医科大学小児科
奥村 謙一,井上 奈緒,尾崎 智康,森 保彦,玉井 浩

【はじめに】心室憩室は極めてまれな疾患であり,小児科領域における本疾患の診断方法,治療,予後について一定の見解はいまだに存在しない.今回われわれは巨大心室憩室を合併したと考えられる拡張型心筋症の 1 乳児例を経験したので報告する.【症例】8 カ月,女児.【主訴】発熱,陥没呼吸.【現病歴】生後 7 カ月時より頭部の異常な発汗に家族が気付いていた.8 カ月時に発熱,陥没呼吸出現し,近医受診.X線にて著明な心拡大を認め,当院に転院となる.【現症】NYHA II度.III音を聴取し,心尖部にLevine 2/VIの収縮期逆流性雑音を聴取した.肝臓は右季肋下に2cm触知した.【検査所見】胸部Xp,CTR 64%.BNP 990pg/ml.心エコーにて著明な左室の拡大(LVIDd 5.96cm)および収縮力の低下(LVSF 0.27)を認めた.また,心室中隔に開口する巨大な心室腔を認め,心室腔は心室中隔左室側から左室後壁にかけて広がっていた.組織ドプラでは心室腔周囲の心筋のvelocityは保たれており,心室腔と心室腔以外の心筋の間にdyssynchronyは認めなかった.心筋ストレインにても,心室腔周囲の心室壁の収縮性は保たれていた.MRIおよび心臓カテーテル検査にても心エコーと同様の所見を認め,心室腔周囲の心室壁には心筋が残存していると判断し,巨大心室憩室を合併した拡張型心筋症と診断した.【臨床経過】強心剤,利尿剤,ACE阻害剤,β遮断薬の投与を開始し,心不全徴候は改善を認めた.BNPは108pg/mlまで低下,NYHAはI度にまで改善し退院となった.【考察】心室憩室と心室瘤の定義はいまだに確立されていないが,心室腔周囲の心室壁内残存心筋の程度が鑑別に必要と考えられている.残存心筋の評価には組織学的検討を必要とするが侵襲的である.心エコー,特に組織ドプラおよび心筋ストレインを用いた心室壁内の心筋機能評価は簡便かつ非侵襲的であり,心筋機能評価に大変有益であると考えられた.

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