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在胎中に心嚢内腫瘍を指摘され,上大静脈症候群を呈して出生した 1 例
京都大学医学部小児科1),心臓血管外科2)
浅田 大1),馬場 志郎1),横尾 憲孝1),美馬 隆宏1),岩朝 徹1),鶏内 伸二1),平海 良美1),村田 眞哉2),土井 拓1),池田 義2),中畑 龍俊1)

心臓縦隔腫瘍は時に上大静脈を圧排し,上大静脈症候群を起こすが,胎児期から診断される症例は少ない.また上大静脈症候群から胎児水腫を起こした胎児は予後不良である.今回われわれは,胎児エコーで心嚢内腫瘍と診断し,上大静脈症候群への進展についても経過観察していた胎児が急速に上大静脈症候群を起こし,心臓血管外科待機のもとに帝王切開となった症例を経験した.妊娠31週の検診で,胎児の右縦隔に腫瘍性病変を指摘された.腫瘍は心嚢腔内に存在し上大静脈を軽度右背側に圧排していたが,上大静脈内腔は確認され,血流はモザイクパターンでなかった.胎児MRIも同じ所見で,自然経膣分娩を待ち,待機的手術予定とした.しかし妊娠37週の胎児MRIで顔面皮下浮腫,羊水過多が認められ,母体入院管理とした.その後から胎児心拍低下も認め,小児科,心臓血管外科待機のもとに予定帝王切開となった.出生時体重2,962g,Apgar score 8/8 点.胸囲(32.0 cm)に比べ頭囲37.5cm(+2.8SD)は著明に拡大していた.上半身全体に著明な浮腫を認め,陥没呼吸,チアノーゼがあり挿管管理とした.出生時の心エコー・胸部CTでは,腫瘍は肺動脈弁前面を下端とし,上大静脈と無名静脈の接合部上方まで伸展する巨大な多嚢胞性腫瘍であった.エコー上,右頸静脈の拡大を認めるも,上大静脈は右外側に圧排されているのみで内腔は確認され,血流パターンも二峰性でモザイクパターンではなかった.日例 1 日目に当院心臓血管外科で心嚢内腫瘤摘出術施行,病理検査で奇形種と診断された.術後経過は問題なく,上半身の浮腫は軽快し,頭囲も正常化した.本症例は上大静脈の持続的圧排により上大静脈症候群を発症したと考えられるが,上大静脈の圧排程度にかかわらず,上大静脈症候群と診断した後の症状の進行が急速であり,注意を要する症例と考えられた.

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