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両側巨大冠動脈瘤で発見され後日血清診断で確定したエルシニア感染症の男児例
佐賀大学医学部小児科学
阿部 淳,田代 克弥,西村 真二,濱崎 雄平

【はじめに】エルシニア感染症はこれまでも川崎病に類似した臨床症状を呈し,冠動脈病変の合併も報告されている.しかし,川崎病との区別は容易ではなく急性期に確定診断へ至る症例は少ない.われわれも急性期には不全型川崎病と診断し,免疫グロブリン製剤の投与を行ったが巨大冠動脈瘤を形成し,後日エルシニア感染症の診断が確定した症例を経験したので報告する.【症例】3 歳男児.市街地に居住し井戸水の飲用はしていない.発熱と消化器症状を初発症状とし当初感染性腸炎を疑われ,抗生剤の投与を受けたが解熱が得られなかった.細菌培養はすべて陰性で経過中に眼球充血・口唇紅潮亀裂の川崎病を示唆する所見がみられたため,9 病日に心エコーを施行した.この時点で両側に径10mmの巨大冠動脈瘤が確認され,免疫グロブリン製剤の投与が行われた.投与後速やかに解熱して炎症所見は改善していったが,10病日左前下行枝の瘤内には壁在血栓の形成が確認され,抗凝固療法を追加した.血栓は当初増大傾向を示したが,経過と共に自然溶解消失して発病後 3 カ月で退院し外来フォローとなった.退院の時点では不全型川崎病と診断していたが,初発症状や冠動脈病変の出現時期が典型的な川崎病とは異なっていたので,除外診断目的にYersinia pseudotuberclosis(YP)の血清抗体価をペアで検討した.本例では急性期に使用した免疫グロブリン製剤の影響も考慮して血清と共に同一ロットの製剤についても合わせてYP抗体価を検討した.結果,回復期のみYP2aの抗体価が病早期前の 4 倍と上昇しており,患児はエルシニア感染症による巨大冠動脈瘤形成と診断が確定した.【考察】本例ではエルシニア感染については早期診断できず,後日の検査にて診断が確定した.不全型川崎病では本例のようなエルシニア感染症が混在していると思われ,培養以外のエルシニア感染早期診断法の確立が必要と思われた.

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