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不全型川崎病に伴う房室弁逆流により,著明な心不全症状を呈したfenestrated-total cavopulmonary connection(f-TCPC)術後の 1 男児例
大阪医科大学小児科
尾崎 智康,奥村 謙一,森 保彦,片山 博視,玉井 浩

【はじめに】川崎病急性期において房室弁逆流(以下AVVR)の増悪が認められることはよく知られているが,房室弁逆流の増悪のみで高度の心不全症状を呈することは少ない.しかし,TCPC術後にとって房室弁逆流は心拍出量低下を引き起こし致命的となる.今回われわれは不全型川崎病に罹患し,房室弁逆流が増悪した結果,高度の心不全症状を呈したTCPC術後の 1 男児例を経験したので報告する.症例:5 歳,男児.主訴:発熱,発疹.既往歴:左心低形成症候群(最終到達術式:f-TCPC手術),利尿剤・ボセンタン・ACE阻害剤・ワーファリン内服中.現病歴:38度台の発熱,発疹が出現したため,当院を受診し抗生物質を処方され帰宅した.その後も症状が遷延し第 5 病日,当院再診.血液検査にて炎症反応の増多を認め,入院となった.入院後経過:抗生物質投与を開始したが解熱せず,第 6 病日に硬性浮腫が出現した.心エコーで,AVVRの急速な増悪を認めた.主要症状3/6であったが不全型川崎病と診断し,第 8 病日より免疫グロブリン超大量投与(IVIG),ウリナスタチンの投与を開始した.AVVRに伴う心不全症状が悪化したため,厳重な水分管理およびミルリノン投与を同時に開始した.治療開始後速やかに解熱し,第14病日に手指の落屑を認めた.また,心不全症状も徐々に改善し第14病日にミルリノンを中止できた.入院経過中の心エコーでは,冠動脈病変は認めず,AVVRも川崎病罹患前まで回復したため第17病日軽快退院となった.考案:本例は年長児発症の川崎病であるため診断に難渋し,AVVRの増悪が川崎病を疑わせる契機となった.患児はTCPC術後よりAVVRを認め,慢性心不全状態であったが,川崎病罹患に伴いAVVRが増悪したことで高度の心不全症状を呈したと考えられた.本例のようなTCPC術後患児の場合,川崎病の速やかな診断および抗心不全治療まで含めた治療戦略が重要であると考えられた.

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