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術前診断できなかった左冠動脈口閉鎖症に対し冠動脈再建術を施行した 1 例
埼玉医科大学国際医療センター小児心臓外科1),小児心臓科2)
岩崎 美佳1),鈴木 孝明1),枡岡 歩1),小林 俊樹2),先崎 秀明2),竹田 津未生2),石戸 博隆2),増谷 聡2),岩本 洋一2),岡田 尚子2),加藤 木利行1)

【症例】生後 1 カ月の男児.出生時より特に異常を指摘されずに経過していたが,1 カ月時突然の哺乳力低下を認め,RSV感染を疑われ前医入院.RSV陰性であったが,心電図にてII・III・aVF・V3~V6にてST低下を認め,生化学検査にて迅速トロポニン I の上昇・心エコーにて高度の心収縮能低下・僧帽弁逆流を認めたため,心筋炎を疑われ当院に緊急搬送された.心エコーでは,LMTが描出されず,LAD内に逆行性血流を認める状態であった.また造影CTでもLMTの大動脈からの起始は確認できず,左冠動脈肺動脈起始症(ALCAPA)が強く疑われたが,術前状態が不良のため心臓カテーテル検査は施行しなかった.心機能の低下が著しく早期の外科的介入が必要と判断し緊急手術の方針となった.体外循環を開始,冠動脈の走行を観察すると,左冠動脈は肺動脈より起始しておらず,上行大動脈の基部に接続していた.心停止後,大動脈を切断すると左冠動脈口は存在せず,逆行性に心筋保護液を注入すると大動脈の近位側断端壁よりoozingを認めるのみであり,LMTは大動脈壁内に至るもValsalva洞内に開口していないと思われた.虚血の原因は左冠動脈開口部の閉塞と考えられ,冠動脈のサイズを考慮し,LMTでの血行再建を選択した.大動脈とLMT間を大伏在静脈を用いてinterposeすることで左冠動脈再建を施行し,速やかな心拍動再開を得た.しかし体外循環からの離脱は困難であり,術後約 1 週間の補助循環を必要とした.補助循環より離脱後,徐々に心機能・全身状態は改善傾向を示したが,36PODに突然の僧帽弁閉鎖不全の悪化・虚血性の心電図変化が出現し,残念ながら37PODに低心拍出量症候群により失った.【まとめ】心エコー・造影CTにて術前に確定診断できなかった,左冠動脈口閉鎖という非常にまれな症例を経験した.術前および術後の心筋虚血による状態の悪化は左冠動脈口の閉塞が原因と考えられたが,剖検所見とともに若干の文献的考察を加え報告する.

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