II-S5-6
インフォームド・コンセントにおける「患者の理解」
上智大学総合人間科学部心理学科
久田 満

インフォームド・コンセント(以下IC)という営みには,少なくとも以下のような要素が含まれている.「医療者の説明」,「患者の理解」,「患者の同意」,「選択された医療行為の実行」である.このなかの「患者の理解」に注目すると,一方的な説明で患者がすべてを理解することはむしろまれで,そこには医療者と患者のやり取り,すなわちコミュニケーション・プロセスが存在する.では,十分にコミュニケーションを取って説明すれば,患者は事のしだいを理解し,合理的な同意(意思決定)ができるかというと,そうとは限らない.ICの際,患者の理解には以下の 2 つの側面があることを考慮すべきであろう.第 1 は認知的側面である.知的・理性的理解と判断である.患者は医療者を含むあらゆるソースから情報を収集して理解に務めるが,たとえ正確な情報を受け取っても,そこから下される判断は合理的だとは限らない.医療という「不確実性」がつきまとう世界では,さまざまな認知的バイアス(勘違いや思い込み)が判断を非合理的にしてしまう.第 2 は情緒的側面である.人間の理解や判断は,しばしば感情的あるいは直感的になされるものである.「理屈ぬき」の理解である.とりわけ高度な専門知識が必要な場合や危機的状況では,不安や恐怖が理性を凌駕し,合理的な判断を困難にする.この主治医は信頼できると思えたら提案には即時に同意するだろうし,不信感が募ればどんなにていねいに説明されても,「納得できない」となる.このように,患者の理解はしばしば非合理的になるが,合理性だけでなく,患者の価値観や満足度を基準とした意思決定をめざすことも必要であろう.

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