II-B-11
小児心臓手術後の難治性リンパ漏に対する治療と予後
山梨大学医学部第二外科,小児科2)
加賀重亜喜1),鈴木章司1),本田義博1),石川成津矢1),井上秀範1),松本雅彦1),星合美奈子2),杉山 央2),角野敏恵2),喜瀬広亮2)

【背景】小児の周術期に遭遇するリンパ漏(乳び胸水,乳び腹水)の多くは,血行動態の改善,禁食,ソマトスタチン投与等で保存的に軽快する.これらに抵抗性の難治例に対する治療と予後について後方視的に検討した.【対象】過去10年間に当院で経験した小児心臓手術後に 2 週間以上持続した難治性リンパ漏 4 例(乳び胸水 1,乳び腹水 1,乳び胸腹水 2)と乳び未確認の難治性胸水貯留 2 例.うち 5 例は新生児で,疾患はHLHS 2 例,IAA complex 1 例,CoA complex 1 例,Truncus/IAA 1 例.手術時日齢は 3~28日(中央値10日),手術時体重は1.4~3.1kg(中央値2.2kg).術式はNorwood手術等の開心術 3 例,両側肺動脈絞扼術等の非開心術 2 例.1 例は幼児で 2 歳 7 カ月,DORV/PS/hypoLV,TCPC術後.発症日は術後第 4~17病日で,1 日の最大排液量は32~388ml/kg.【結果】検査:Tc-99m-HAS-Dリンパ管シンチを 2 例に施行し,1 例で漏出部位の確定が可能であった.外科的治療:胸部リンパ管結紮を 2 例に行ったが,軽快に至らなかった.胸水のみの 2 例に横隔膜開窓術施行し著効した.保存療法:発症35日後に突然の自然寛解が 1 例とステロイド投与により軽快した 1 例.予後:生存 4 例,在院死亡 2 例(リンパ漏関連死 1,不整脈死 1)であった.【考察】乳び胸水,腹水の原因として新生児領域では突発性の報告も多いが,小児心臓術後では血行動態の変化や手術侵襲がリンパ管系の異常を惹起する可能性も考えられる.漏出部位の特定にリンパ管シンチは有用な検査法であった.難治例では,ステロイド投与を考慮すべきであると考えられた.リンパ管(胸管)結紮は有効ではなく,胸水単独例に対する横隔膜開窓術は治療の選択肢と考えられた.難治例であっても,いったん軽快が得られた症例の予後は良好であった.

閉じる