II-D-15
乳児期完全型心内膜床欠損症の肺高血圧に対する肺生検によるダウン症の検討
あいち小児保健医療総合センター心臓外科1),循環器科2)
鵜飼知彦1),角三和子1),横手 淳1),為西顕則1),安田東始哲2),福見大地2),沼口 敦2),足達武憲2),長嶋正實2),前田正信1)

【目的】ダウン症児では肺血管病変の進行が速いといわれ,乳児期の完全型心内膜床欠損症(AVSD)で高度肺高血圧(PH)合併例において根治術後PH crisis,PH残存により治療に難渋するケースも認められる.治療方針決定のため肺生検診断が行われているが,いまだ判断の難しい症例も認められる.今回われわれは乳児期PHを伴うAVSDの心臓カテーテル検査値,肺生検からの病理組織所見を比較検討し,術後経過,予後について検証した.【対象】当院開院から2008年 1 月までの 4 年 5 カ月間に施行した複雑心奇形の合併例を除く乳児期PH〔体肺血圧比(Pp/Ps)が0.5以上〕合併のAVSD手術例 9 例.Rastelli分類のA型 5 例,C型 4 例.手術時年齢は,月齢 1~6 で平均月齢3.0±0.5カ月.平均Pp/Ps = 0.88±0.02.ダウン症は 8 例.合併疾患は大動脈縮窄症 1 例,動脈管開存症 3 例.術式は全例に肺動脈絞扼術(PAB)を施行.うち根治術到達例 4 例,根治手術待機例 5 例.肺生検症例は 8 例(ダウン症 7 例).生検時期は,8 例ともPAB時.【結果】手術死,病院死はなし.PAB後の平均挿管期間は2.1±0.3日.根治術後のPH crisisはなかったが,PH残存例は 1 例(25%).PH残存例は,ダウン症でPAB時月齢 3,PAB前体肺血流比(Qp/Qs)= 1.95,Pp/Ps = 0.88,肺血管抵抗(PVR)5.12 units・m2で,PAB後Pp/Ps = 0.59,PVR 4.2であった.PAB前の左側房室弁逆流は 2 度が 2 例.根治術時 4 例全例に左側弁尖形成,1 例に部分弁輪縫縮.術後左側房室弁逆流は 1 度が 2 例.肺生検でIPVDは1.0~1.2,肺小動脈中膜肥厚高度例は 3 例,高度でない例は 5 例で,術後臨床経過区分はA(PH残存なし)が 4 例,B(PH残存)が 3 例,C(遠隔死の可能性)が 1 例(根治術待機例).【まとめ】肺生検の所見と臨床経過はおおむね一致していた.肺血管病変の進行の速いダウン症に対し乳児期早期にPABを施行し,1 歳前後に房室弁形成を伴った根治術を行い術後PH crisisのリスクを抑える二期的根治術は一つの治療戦略であると思われる.

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