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タクロリムス水和物(FK506;プログラフ)によるQT延長作用
山梨大学医学部小児科1),薬理学2),第二外科3)
喜瀬 広亮1),杉山 篤2),中村 裕二2),岩崎 宏2),三森 義崇3),星合 美奈子1),杉田 完爾1)

【目的】タクロリムスは代表的な免疫抑制剤であり,IL-2の産生を抑制する.一方,この薬物はマクロライド構造を有し,ラット摘出心筋細胞のItoおよびIK電流の抑制作用や活動電位持続時間の延長作用,モルモットの心電図QT間隔の延長作用を有することが報告されている.臨床例におけるQT間隔の延長やtorsades de pointesの発生も報告されている.今回の研究では,タクロリムスによる電気薬理学的作用をハロセン麻酔犬モデルを用いて詳細に評価した.【方法】体重約10kgのビーグル犬をハロセンで吸入麻酔した(n = 5).非開胸下で血圧,左心室内圧,体表面心電図,His束心電図,単相性活動電位持続時間(MAP90),心拍出量および心室有効不応期(ERP)を計測した.心室の電気的受攻性を再分極終末相持続時間(TRP = MAP90 - ERP)を測定することにより定量化した.タクロリムスの 1 日投与量の1/10および 1 倍量(0.01および0.1mg/kg)をそれぞれ10分間で静脈内に投与し,上記指標に対する作用を評価した.【結果】低用量のタクロリムスはQT間隔を延長したが,他の指標には作用を与えなかった.高用量のタクロリムスは,再分極時間の延長作用に加えて,陰性変時・変力・変伝導作用,左室前後負荷減少作用,血圧低下作用,ERPおよびTRPの延長作用を示した.また,タクロリムスによる再分極時間の延長作用には逆頻度依存性が認められた.【総括】タクロリムスは心血管系に対して抑制的に作用し,逆頻度依存的に再分極過程を延長し,心室の電気的受攻性を増加させた.他剤と併用する場合や心予備能の乏しい患者で使用する場合には特に注意が必要である.

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