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未投薬で経過観察中となっているLQT2(Arg784Trp)の 1 家系
横浜市立大学附属病院小児循環器科
西澤 崇,岩本 眞理,志水 直,渡辺 重朗,山口 和子,赤池 徹,佐近 琢磨

家族性QT延長症候群(LQTS)は心筋イオンチャネルの機能異常を原因とし,心室再分極時間が延長し,時に致死的な多型性心室性頻拍(torsade des pointes:TdP)を引き起こす疾患である.これまでに 8 つの原因遺伝子が判明し,それぞれ 8 つのサブタイプに分類される.なかでもKCNQ1遺伝子変異を原因とするLQT1およびKCNH2遺伝子変異を原因とするLQT2が全体の80%を占めると報告されており,LQT1はおもに運動中,LQT2は徐脈時や驚いたときなどの急激な交感神経の緊張時にTdPが引き起こされることが知られている.症例13歳男児.6 歳時の心臓検診にて心電図上QT延長(QT = 0.60sec,QTc = 0.58sec)が確認され,当科紹介となる.心電図上胸部誘導にてV1~V4のnegative T patternを示し,運動負荷心電図ではQT短縮率は0.46と良好であった.TdPの既往はなく,当時水泳とサッカー教室に通っていた.母親の心電図は胸部誘導にてlow amplitude bifid Tを示し,QT = 0.48sec,QTc = 0.50sec,当時 0 歳の弟の心電図はQT = 0.42sec,QTc = 0.49secであった.弟の 6 歳時学校検診での心電図はQT = 0.50,QTc = 0.56secであった.母弟ともにTdPの既往はなかった.遺伝子検査にてLQT2遺伝子にArg784Trp変異を確認した.24時間心電図検査,運動負荷試験を繰り返し施行するも,これまで心室性不整脈が確認されたたことはなく,顔面冷水負荷試験にてT波の形態変化およびQT時間の延長を確認するも,これまでのところ危険な心室性不整脈の出現は 3 人に認めていない.LQT2症例の経過,TdPについての説明,突然死のリスクを含め治療の開始,継続の必要性について,十分インフォームドコンセントを行ったにもかかわらず,βブロッカーの内服,運動制限等の予防的治療に対して強い抵抗を示し,現在まで水泳に関して飛び込み,潜水を禁止する他は生活制限もせずに経過観察中である.このような症例に対し今後考えられる問題点を考察し報告する.

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