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III-S9-6 |
先天性心疾患の疫学 |
富山大学医学部小児科
市田 蕗子 |
先天性心疾患(CHD)の頻度は,1,000人に対して,10.6人,約 1%の割合で出生している.日本小児循環器学会の疫学委員会の13年間にわたる調査では,代表的な疾患の頻度は,心室中隔欠損(32.1%),ファロー四徴症(11.3%),心房中隔欠損(10.7%)であった.大動脈縮窄,大動脈弁狭窄,左心低形成症候群などの左心系疾患は,欧米に比べて少なく,逆にファロー四徴症や心房中隔欠損は欧米よりも多く,人種差がある.CHDの同胞に再発する頻度は,2~5%であり,一般の発症頻度(約 1%)の 2~5 倍と高い.CHDの成因には,(1)遺伝子病,染色体異常症,(2)環境要因,(3)多因子遺伝があるが,多因子遺伝がほとんどであり,遺伝要因と環境要因がともにかかわり,その要因を特定できない.しかし,近年FISH法を用いた染色体検査や遺伝子診断の進歩により,これまで多因子遺伝とされていた疾患の遺伝要因が明らかになり,遺伝子病や染色体異常症の割合(13%)が増加している.遺伝要因では,22q11.2欠失症候群やWilliams症候群などの染色体微細欠失や,CSX/NKX2.5,GATA4,TBX1,TBX5などの遺伝子が,心臓の発生に関与していることが明らかになった.環境要因では,風疹などの母体感染症や糖尿病,ある種の薬物など催奇形因子のみならず,妊娠中の喫煙,飲酒もCHDの発症に少なからず関与している.また,CHDを出産した母体は,貧血,切迫流産・早産,妊娠中毒症など妊娠中の異常が高頻度に認められ,CHD発症に少なからず関与している可能性がある.特に,CHD児母体の流産死産率は,心室中隔欠損(25%),ファロー四徴症(31%),心房中隔欠損(27%)で,一般人口における流産死産(4%)に比べ極めて高い頻度である.流産死産した同胞が,CHDのために流産死産した可能性も高い.外科治療の進歩により,成人に達したCHD児は急増しており,わが国では,成人先天性心疾患患者(GUCH)数は約40万人といわれる.そして,年間約 1 万人のGUCH患者が増えている.GUCH患者の大部分は妊娠出産が可能であるが,これらの患者からの生産児はCHD合併が高い(CHD母体からは,2.5~18%,CHD父親からは,1.5~3%).遺伝相談を含めた包括的なCHD医療が,今求められている. |
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