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III-S9-8 |
多因子遺伝と先天性心疾患 |
東京女子医科大学国際統合医科学インスティテュート1),慶應義塾大学医学部小児科2)
松岡 瑠美子1),山岸 敬幸2) |
先天性心血管疾患は,新生児約100人に 1 人に認められる先天異常であり,新生児・乳児死亡のおもな原因である.先天性心血管疾患の成因では遺伝子・染色体異常などの遺伝要因が全体の約13%,風疹,母体の全身病,薬剤など,ある種の催奇形因子や環境要因が約 2 %を占め,残りの約85%は成因不明の多因子遺伝とされている.日本小児循環器学会疫学委員会によると,家族性先天性心血管疾患のうち,全体の約 2/3 を占める,心中隔欠損,肺動脈狭窄,ファロー四徴,動脈管開存家系に関する疫学調査のまとめでは,家族性先天性心血管疾患の70%に,同一先天性心血管疾患の反復が認められている.このなかで心房中隔欠損は,心室中隔欠損,ファロー四徴に比べ,親子間発症頻度が有意に高く,その発症に遺伝要因が強く関与している症例が多い(p < 0.01).一方,ファロー四徴の同一疾患共有率が心室中隔欠損,心房中隔欠損,動脈管開存の家系に比べ有意に低く(p < 0.05),親子間よりも同胞内でファロー四徴の発症頻度が低値を示した.さらに,心室中隔欠損,心房中隔欠損,動脈管開存に比べ,ファロー四徴の発端者の母親の妊娠中の貧血が有意に高頻度(p < 0.005)に認められたことを加味すると,ファロー四徴ではその発症に母胎環境が強く関与している症例が多いことが示唆される.また,遺伝要因が特定されている22q11.2欠失症候群などでも,均一の遺伝子型を有する症例が幅広い表現型スペクトラムを呈することは興味深い.以上より,純粋にメンデル遺伝のみで決定される先天性心血管疾患は少数であり,ほとんどは胎内における形態形成,生後の発育,発達,加齢における環境要因により,疾患遺伝子の関与の程度が左右され,表現型の多様性と深くかかわると考えられる.成因不明の多因子遺伝とされている85%の先天性心血管疾患について,解析の進展と遺伝と環境の相互作用についての現状を述べる. |
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