III-C-10
外科的右心不全モデルマウスにおける右室肥大の生理学的,分子生物学的特徴
東京慈恵会医科大学小児科1),スタンフォード大学小児科2)
浦島 崇1,2),Daniel Bernstein2),飯島正紀1),安藤達也1),斎藤亮太1),藤原優子1),中澤 誠1),衛藤義勝1)

【背景】右心不全は右室流出路狭窄を伴った先天性心疾患患者の長期予後に強く関与する.しかし左心不全に比べて右心不全に関する分子生物学的,生理学的特性に関する報告はほとんどない.【方法】生後 8 週の雄FVBマウスに対して開胸術を施行し主肺動脈絞扼術を施行した.術後 7 日目に心エコーを施行し心室中隔が扁平もしくは左方偏位し,絞扼部の前後で35mmHg以上の圧較差を呈したものを成功例(PAC)とした.心エコーはGE社Vivid 7,dP/dtの測定は1.4F Miller catheterを使用し計測を行った.術後10日,20日に経尾的にdobutamine30γを投与しdP/dtの変化を検討した.さらに右室自由壁から抽出したtotal RNAからgene chipを使用し網羅的な遺伝子発現解析を行った.コントロールはshamモデルを用い左心肥大モデルとしてtransverse aortic constriction(TAC)モデルと比較検討した.【結果】PACモデル(n = 16)の平均生存日数は14.7日であった.術後10日にPACの右室心筋細胞面積はコントロールと比べて有意に増加を認めた(p < 0.01).右室dP/dtは術後10日では有意差はなく,術後20日で有意な低下(p < 0.005)を認めた.DOB負荷によるdP/dtの変化率は術後10日では有意差なく,20日では有意な低下(p < 0.01)を認めた.TAC左室では 3 カ月以上dP/dtの低下は出現しなかった.gene chipによる検討では多くのtranscriptがPAC,TACで同様に上昇していたがWntシグナリングに関連するwif1,sfrp2,dkk3やBMP2シグナリングに関連するNbl1がPACに特徴的に上昇していた.【結論】マウスにおいても十分な再現性で血行動態の評価が可能であった.術後10日では心筋肥大による代償機転によりcontractility,DOBによる反応性は維持されたが術後20日では両者の低下を認めTAC左室よりも早期に代償機転は崩壊した.gene chipにおいて右室肥大に特徴的なメカニズムの存在が示唆され,さらにPACモデルを使用した右心不全に関して検討が必要である.

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