III-C-13
心不全の指標となる血漿BNP値とNT-proBNP値はどのように異なるのか?
福岡市立こども病院循環器科
中右弘一,石川友一,石川司朗,千田礼子,安田和志,中村 真,牛ノ濱大也,佐川浩一,総崎直樹

【はじめに】血漿BNP濃度は心不全評価に用いられる有用な指標で,小児科領域でも汎用される.当院では,ファロー類縁疾患の術後遠隔期にみられる右室容量負荷(RVVO)患者の血行動態評価にも用いてきた.しかし,同疾患群ではRVVO程度に比し血漿BNP値が低値で,この循環動態の評価に血漿BNP値が適さないのではないかという危惧を抱いていた.2007年から保険収載されたBNP前駆体のN端フラグメント(NT-proBNP:以下NT)は,血漿以外に血清でも測定が可能で,BNPより安定で血漿BNP値とよく相関するとされる.今回,血漿BNPが比較的低値な領域で両指標値の関連について検討した.【対象・方法】2007年11月~2008年 1 月に,当科で血漿BNP濃度を測定した心疾患患者121例〔中央値11歳(4 カ月~36歳),ファロー類縁疾患術後50例,右心バイパス34例,cTGA 6 例,心筋症 8 例,不整脈 3 例,ほか20例〕の血漿BNP値とNT値を同一検体から測定した.両指標の相関,および心カテを施行した患者の右心室容量と両指標の関連も検討した.【結果】BNP値(2~981pg/ml,n = 121)とNT値は線形でR2 = 0.9523(p < 0.001),BNP ≦ 20pg/ml(n = 50)ではNTと線形でR2 = 0.3693,20 < BNP ≦ 100pg/ml(n = 63)ではNTと線形でR2 = 0.2489,さらにBNP > 100pg/ml(n = 8)ではNTと線形でR2 = 0.9679の正相関を示した.また,心カテを施行した11例において,%RVEDVとBNPは線形でR2 = 0.0928であったが,NTとは線形でR2 = 0.2452とより強い正相関を示した.【考案】先天性心臓病を中心とした患者においてもBNPとNTは極めて高い相関を示した.さらに詳細な検討で,正常BNP域と100pg/ml以上でBNPとNTは非常に強い相関を示したが,20 < BNP ≦ 100pg/ml域ではゆるい相関にとどまり,BNPとNTの代謝の相違から血漿BNP値がBNP産生量を十分反映しない可能性が示唆された.ファロー類縁疾患術後のRVVO患者が多く分布するBNP軽度上昇域では,NT値のほうがRVVOの程度をより正確に反映する指標である可能性がある.

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