基調講演 
子どもの時からこころをいつも氣にかけてきた
ノーベル文学賞受賞作家
大江 健三郎
 子どもの時,こころは頭にある,という友達に,私は胸にある,と反論しました.そしてこころといいながら,左の胸にさわるのがクセとなって,いまでもそうしている自分に氣がつくことがあります.子どもの時の,自分のいちばんの氣がかりが心臓で,眠れない夜はいつもそれを考えました.そして,考えているのはこころだとも思いました.
 私は小説を若い時から書き始めて,そのために,言葉についてとか,想像力についてとか,自分としての理論武装をやってきたものです.しかしいま,老年の小説家として,本当の晩年の仕事を心がけていますが,そこで考えるのは,こころのことです.
 子どもの心臓の専門家たちの前で,そうした「自分史」をお話したいと思います.


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