座長の言葉 2.「心臓血管発生:先天性心疾患予防へ向けて」 
心臓血管発生—先天性心疾患予防は可能か?
慶應義塾大学医学部小児科1),滋賀医科大学小児科2)
山岸 敬幸1),中川 雅生2)
先天性心疾患の予防という小児循環器医の究極の夢を現実にするためには,その基礎となる心臓血管発生学研究の進歩が不可欠である.高等動物の心臓血管発生は,時間的・空間的に秩序だった多くの複雑な過程により成立する.この複雑な過程を効率よく理解するためには,心臓血管発生をいくつかの領域別に分け,各領域でどのような細胞・分子機構により,どのように心臓血管系が形成されるかを考えるとよい.実際,私たちが日常診療で遭遇する多くの先天性心疾患は,これらいずれかの領域の特異的な発生異常に起因する.本シンポジウムのテーマの一つである房室弁は,心内膜細胞の上皮‐間葉細胞形質転換(EMT)により発生する心内膜床の領域から形成される.冠動脈は,前心外膜組織(PEO)に由来し心外膜に分化した細胞の一部がEMTを介して心筋層に血管網を形成し,その後大動脈基部に開口することによって完成する.稲井慶先生に房室弁形成の分子機構について,花戸貴司先生と宮川-富田幸子先生には冠動脈領域の形成における大動脈への開口機構について,最新の研究成果をご報告いただく.また,環境因子が心臓血管発生の領域別遺伝子制御に及ぼす多面的な影響に関して,レチノイン酸投与マウスの最新データを白石公先生にご紹介いただき,先天性心疾患の発症予防についても考察していただく.さらに,招待演者として森崎裕子先生に,Marfan症候群の遺伝子解析に関する最先端の研究成果のご講演をお願いした.大動脈(弁)および僧帽弁領域に高率に心臓血管異常を発症するMarfan症候群に対して,遺伝子制御と環境因子について考えることにより,心臓血管異常の発症を効果的に予防することができるか,という可能性を含めて概説していただく.


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