I-C-11
単心室症例に対する体肺動脈短絡手術—急変症例の検討—
筑波大学大学院人間総合科学研究科心臓血管外科
金本真也,平松祐司,徳永千穂,松原宗明,金子佳永,榊原 謙

【はじめに】単心室症例に対する体肺動脈短絡手術(APS)は肺血流を維持するうえで有効な姑息手術である.しかしながら,APS後の急激な体肺血流バランスの変化と心室容量負荷の増大は循環動態の変動をもたらし,術後急変の危険性を増加させる可能性がある.【目的】APS後に急変した単心室症例を後方視的に検討する.【対象】2002年 1 月~2008年12月,筑波大学附属病院で初回手術として非人工心肺下にAPSを作成した単心室症例.術後48時間以内に肺血流量調節を目的とした緊急手術および心肺蘇生処置等を必要とした急変症例(A群;n = 5,PA-IVS;4,UVH,severe PS;1)および緊急処置を必要としなかった非急変症例(N群;n = 12,UVH;7,TA;2,other;3)【結果】A群はN群と比較して日齢(A;22 ± 11,N;42 ± 23,p = 0.08),体重(A;2.8 ± 0.4kg,N;3.6 ± 0.7kg,p = 0.04)ともに低かった.両群ともAPS作成に3.5または 4mmの人工血管を使用,体重と比較してA群でより大きな人工血管を使用する傾向が認められた(A;1.4 ± 0.1mm/kg,N;1.1 ± 0.2mm/kg,p = 0.03).A群 5 例中 4 例は救命し得た.PA-IVS 4 症例中 3 例は手術終了直後に急変し 2 例は救命,残りの 1 例は急激に高肺血流が進行,術後 3 時間で動脈管結紮術を施行した.UVH,severe PS症例は肺うっ血が進行,術後36時間目にshunt takedownを行った.手術終了直後の動脈血中乳酸値はA群で有意に高く(A;5.4 ± 2.7mmol/l,N;1.3 ± 0.5mmol/l,p < 0.01),術中から末梢循環不全が急速に進行している可能性が示唆された.【結語】APS後急変の誘因として術中の急激な末梢循環不全の進行が考えられる.特に低体重児におけるAPS作成に際しては,術中から体肺血流バランス変化に伴う末梢循環不全の進行に注意するべきであると考えられた.また急変症例は特定の疾患群に偏在している傾向が認められ,急変の誘因に疾患の解剖学的特徴が影響を及ぼしている可能性が示唆された.

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