I-E-4
特発性肺動脈性肺高血圧症の新規疾患遺伝子SMAD8の同定
東京女子医科大学国際統合医科学インスティテュート1),先端生命医科学センター2),東邦大学医療センター大森病院小児科3),東京女子医科大学循環器小児科4)
新谷正樹1,2),八木寿人1),中山智孝3),古谷道子1,4),新井正一1),佐地 勉3),松岡瑠美子1,2,4)

【背景】特発性肺動脈性肺高血圧症は,肺小動脈に閉塞性病変を来し肺動脈圧が上昇する進行性疾患であり,小児期発症例は全体の約25%を占める.少なくとも 6%の症例で家族性発症が認められているが,浸透率は10~20%と低い.疾患遺伝子としてはBMPR2遺伝子が同定されている.また,ALK1遺伝子の変異も報告されている.BMPR2,ALK1がともにTGF-β superfamilyに属していることから,TGF-β/BMPシグナル伝達に関係する他の遺伝子の変異が本症の発症に関連している可能性が考えられる.【方法】BMPR2,ALK1変異を認めない特発性肺動脈性肺高血圧症23症例を対象とし,TGF-β/BMPシグナル伝達に関係するENDOGLIN,SMAD1,SMAD2,SMAD3,SMAD4,SMAD5,SMAD6およびSMAD8遺伝子の解析を行った.【結果】SMAD8ナンセンス変異C202Xを 1 例(8 歳男児)に認めた.SMAD8変異C202Xのリン酸化をTGF-β/BMPI型受容体を用い検討したところ,SMAD8 wild typeがリン酸化されたのに対し,変異C202Xはリン酸化されなかった.免疫沈降法の検討では,SMAD8 wild typeはTGF-β/BMPI型受容体存在下でSMAD4と結合するのに対し,変異C202Xは SMAD4と結合しないことを認めた.【考察】SMAD8変異C202XはTGF-β/BMPI型受容体によりリン酸化されず,SMAD4との結合能も欠失していることから,TGF-β/BMPシグナルの核内への伝達異常を引き起こすと考えられた.【結論】特発性肺動脈性肺高血圧症に新たにSMAD8遺伝子ナンセンス変異C202Xを同定した.SMAD8遺伝子異常は本症および他の疾患で報告されておらず,本症の発症機序の解明に重要な手がかりになると考えられる.

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