【背景】ヒトの心臓形態発生（cardiogenesis）後に約30週続く発育過程において，異常発育が心室低形成に関与している事が示唆されている．しかし，脆弱性・サイズ・検体入手の問題により，在胎20週未満のヒト心臓発育の形態学的特徴は不明な点が多い．【目的】小検体に対して高解像度3Dデジタル再構築解析を可能にするhigh resolution episcopic microscopy（HREM）を用いて，正常ヒト心臓のcardiogenesis直後（first trimester後期）の形態学的特徴を観察する．【方法】対象は人工妊娠中絶より採取されたヒト胎児心臓18検体（在胎 9～11週）．研究プロジェクトはImperial College LondonのEthical Committeeに受理承諾され，全例informed consentを得て，検体を採取した．各検体を採取・固定後，プラスチック樹脂（JB4，Polyscience）にマウントし，切片作成と各切片の画像取込みを自働的に1,000回以上繰り返すことで，3D volume datasetを作成し，3D画像および多断面画像を再構築した．【結果】全例HREMにより高解像度3D画像を作成でき，再構築画像を解析可能であった ．Cardiogenesis後のヒト心臓は，両心耳が大きく，心房内腔は極端に小さかった．左心室の心筋は緻密化がすでに完了しており，大血管は壁肥厚と内腔狭小化が著明であった．マウス心臓との比較では，冠動脈の発達および両心室の螺旋構造関係が顕著であった．【考察】正常心臓には発育段階初期に特異的構造があり，心血管壁構造が成熟することが心臓発育の第一段階であることが推察された．【結語】Cardiogenesis直後のヒト心臓は，マウスとは明らかに異なる形態学的特徴を有しており，心発育異常の解析には，分子生物学的分析だけでなく，詳細な形態学的解析が必要であることが示唆された．