I-E-11
心血管発生におけるイノシトール三リン酸受容体を介する新たなCa2 + シグナル伝達機構の解明
慶應義塾大学医学部小児科1),東京電力病院小児科2),東京都立清瀬小児病院循環器科3)
内田敬子1,2),仲澤麻紀1),荒巻 恵1),古道一樹1),大木寛生3),山岸敬幸1)

【緒言】近年,原始心筒を形成する側板中胚葉の一次心臓領域に加えて,臓側中胚葉の二次心臓領域(second heart field: SHF)が,右心室・流出路の発生に関与することが明らかにされた.SHFの分子機構の中で,転写因子MEF2Cの重要性が報告されている.MEF2C欠損マウスでは,右心室・流出路の低形成と血管系の障害が起こる.MEF2Cの機能調節には細胞内Ca2+シグナルが関与することが示唆されているが,その詳細は不明である.今回,私たちは,細胞内Ca2+放出チャネルであるイノシトール三リン酸受容体(IP3R)が,MEF2Cの上流制御因子として,SHFおよび血管系の発生に必須の役割を果たすことを示唆する実験結果を得た.【方法】胎生 9 日前後の 1 型・ 3 型IP3Rダブルノックアウト(DKO)マウスを用いて, (1)顕微鏡的および組織学的な心臓血管系の形態,(2)免疫組織化学法,in situ hybridization法,およびマイクロアレイ法による遺伝子発現を解析した.さらに,IP3R阻害薬を用いて,IP3Rを介するCa2+シグナルがMEF2Cの転写活性に与える影響を調べた.【結果】DKOマウスにおいて,右心室・流出路の低形成および血管系の障害が認められた.DKOマウスでは,apoptosis亢進によるSHFの細胞数の減少が認められ,右心室・流出路の低形成の原因と考えられた.遺伝子発現解析では,DKOマウスにおいてMEF2Cとその下流転写因子BOPの発現が低下しており,MEF2CによるBOPの転写活性化能は,IP3R阻害薬により抑制された.【考察】IP3R 1・3 型DKOマウスでは,MEF2c欠損マウスと同様,SHF由来の右心室と流出路の低形成とMEF2c-BOP系の抑制,血管発生における血管新生への移行の障害が認められた.【結論】 1 型・3 型IP3R は,遺伝的相補性をもってSHFおよび血管系の発生において必須な機能を果たす.本研究により,心臓血管発生のkey factorであるMEF2Cの機能を制御する,新たなCa2+ シグナル伝達機構として,IP3Rの重要性が明らかにされた.

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