I-P-85
障害を有する冠動脈の流体力学的シミュレーション
日本医科大学小児科
阿部正徳,深澤隆治,勝部康弘,上砂光裕,大久保隆志,赤尾美春,渡邊美紀,鈴木伸子,池上 英,渡邊 誠,小川俊一

【背景・目的】川崎病冠動脈瘤・狭窄を有する障害血管の血行動態を理論的にシミュレーションした.【方法】正常冠動脈流体力学的一次元モデルとして左冠動脈を想定.構成要素としては血管径(LMT 2.8mm,LAD・C×2mm),血管抵抗,血圧(100/60mmHg)を設定した.次にLAD領域に正常血管径の 2 倍の小瘤モデル(Case 1),巨大瘤モデルとして血管径の 4 倍のモデル(Case 2)を設定した.巨大瘤に遠位部狭窄(85%狭窄)を合併しているモデル(Case 3)を設定した.なお,用いたモデル瘤および血管走行は対称軸である.次に三次元の軸対象な紡錘型の冠動脈瘤を設定し,拍動性の血流パターンを与え,流体シミュレーションを行った.瘤前後および瘤内の血流速度および流れのパターンとそれに基づく瘤前後および瘤内各部位におけるshear stressの算出を行った.【結果】Case 1,2 ともに灌流圧の瘤前後での低下,血管内血流速度の低下は認められなかった.また,前後での血流波形の時相の変化もなかった.Case 3では瘤遠位部に灌流圧および血流速度の33%低下が認められた.また瘤近位部では流入波型の時相のずれが認められた.三次元瘤シミュレーションでは血流速度については瘤入口部および出口部では上流で発生した拍動流そのままであるが,瘤内の壁辺縁は有意に血流速度が低下し,そのピークは瘤径最大部で最大の血流速度の低下が認められた.一方,灌流圧に関しては拍動流のピーク時に瘤出口直前で最大の圧力となった.平均wall shear stressは瘤径の最大部で最低となり,さらに瘤入口部直後でも有意に低値であった.【考察】軸対象の理論モデルでは質量保存の法則に従い,瘤前後において血流速度,灌流圧が低下することはなかった.Shear stressは瘤内の最大拡張部で有意に低値となり,血管内皮機能の低下が示唆された.

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