II-P-68
グローバルな血液凝固試験による術後出血量の術前予測の可能性
奈良県立医科大学小児科1),胸部心臓血管外科2)
林  環1),福田和由1),嶋 緑倫1),吉川義朗2)

【背景】心臓手術後の凝固線溶指標の変化は知られているが,臨床症状との関連は不明である.【目的】周術期の凝固,線溶動態を明らかにし,術後24時間の胸腔ドレーン排液量(CTD)に影響を与える因子を検討する.【対象】過去 2 年間に当院で手術を施行した先天性心疾患症例20例(ポンプ使用例15例)について検討した.【方法】CTDに影響を与える因子として,術前と術後24時間の時点で,抗凝固薬の影響のない状態での血小板数,Ht,一般的凝固検査およびトロンビン生成能検査(TGT),rotation thromboelastometry(ROTEM),手術時間の解析を実施した.TGTは検体血漿のトロンビン生成予備能を示す.TGTでは最大生成量(PEAK),PEAKまでの時間(ttPEAK),生成速度面積(ETP)を検討した.また,ROTEMは全血を検体とし,グローバルな凝固動態を評価できる.ROTEMでは凝固時間(CT),凝固形成時間(CFT),α角度,最大堅固性(MCF),凝固最大速度(maxVel),凝固最大速度時間(t-maxVel),MCFまでの凝固速度面積(AUC)を測定した.【結果】全例で術前の凝固異常はなかった.CTDは術前のETP,CFT,術後のトロンビン・アンチトロンIII複合体(TAT),Peak,ETP,CFT,α,maxVel,MCF,AUCと相関した.手術時間はROTEMの指標にのみ影響を与えていた.【考察】CTDはROTEMおよびTGTの指標と相関しており,特に術前のCFT,ETPのデータはCTDと相関した.術前のETPは先の報告の正常範囲内だが,手術環境下ではこの範囲のばらつきが術後の出血量に影響すると考えられた.術前にこれらの値を測定することで術後の出血量の事前予測が可能であり,その値を超えない限りは不可避な出血量といえる.今後輸血療法を適切に行う指標となると考えられる.

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