II-P-70
先天性心疾患術後に対するシルベスタットナトリウム水和物(エラスポール)の臨床的効果について
千葉県こども病院集中治療科
杉村洋子

エラスポールは好中球エラスターゼ阻害剤として全身性炎症反応症候群に伴う急性肺障害に効果があるとされている.また,心臓外科手術後の人工心肺によるサイトカインの流出に起因するとされる肺障害にも効果があるという報告がある.しかし,当集中治療室に術後に入室した心臓外科患者に対してエラスポールを使用し,その効果を臨床的に感じたことはない.当院では2007年 3 月までは人工心肺症例全例に対して術直後にエラスポールを使用していたが,諸事情によりこれを使用しなくなった.そこで,2006年 1 月~2007年 3 月をエラスポール使用群(E群),2007年 4 月~2008年12月をエラスポール非使用群(非E群)とし,両群を比較し,心臓外科手術後の症例に対する臨床的な効果を人工呼吸期間を中心にみることにした.対象は2006年 1 月~2008年12月に当院心臓外科で人工心肺使用下に手術された症例全291例.男女比は13対10.日齢 0~16歳(平均2.2歳)であった.これらに対し,後方視的に診療録から検討をした.人工呼吸期間はE群7.7日,非E群7.7日であった.集中治療室滞在日数はE群11.5日,非E群10.6日であった.年齢で大別すると人工呼吸期間は新生児群ではE群13日,非E群21日,新生時期以降ではE群6.4日,非E群6.1日であった.急性呼吸促迫症候群を発症したのはE群 3 例(2.3%),非E群 4 例(2.5%)であった.新生時期ではE群のほうが非E群より人工呼吸期間が有意に短かったが,ほかは両群で差は認められなかった.先天性心疾患術後の人工呼吸器装着期間は純粋に肺の状態のみでは決定できず,循環動態ほかにも寄与するところが大だが,少なくともエラスポール使用という因子は人工呼吸期間を短縮しているということは言えないと考える.

閉じる