II-P-72
Fontan術後の上室性頻脈に対する超短時間作用型βブロッカー塩酸ランジオロールの使用経験
新潟大学大学院医歯学総合研究科呼吸循環外科学分野1),小児科学分野2)
渡辺 弘1),高橋 昌1),白石修一1),林 純一1),鈴木 博2),長谷川聡2),星名 哲2),沼野藤人2)

【背景】塩酸ランジオロールは短時間作用型β1選択的遮断薬で,手術中および術後の頻脈性不整脈に対する有効性が成人例で報告されている.小児例での報告が少なく,有効性・安全性は明らかではない.今回,小児のFontan術後という特殊な病態でランジオロールを使用したので,詳細な経過を報告する.【症例】2 歳,女児.右側相同(無脾症候群),右室型単心室,肺動脈狭窄.段階的extracardiac TCPCを施行した.術後 2 日目に心拍数(HR)が180台,時に200以上に上昇し,血行動態が不安定になった.ATP静注が無効であり,自動能の亢進と考えられた.カテコラミン中止後もHR低下しないため,ランジオロールを 3μg/kg/minで投与を開始し,効果をみながら 5μg/kg/minに増量して維持量とした.投与後にHRは速やかに130台に低下した.血圧は120台から100台に低下したが,血行動態は安定化した.48時間使用し,HRが100以下に急激に低下したため,心房ペーシングを開始するとともにランジオロールを中止した.その後,HRは緩やかに回復した.【考察】Fontan術後の上室性頻脈は血行動態を急激に悪化させる危険因子であり,特に右側相同では頻度が高い.ランジオロールは,このような症例でHRのコントロールが容易であり,Fontan循環に及ぼす悪影響が少なかった.投与量に関して:成人では,0.125mg/kg/minで 1 分間の初期投与後,0.04mg/kg/minの維持投与が推奨されているが,小児開心術後では 3~5μg/kg/minの少量で有効であった.【結論】(1)塩酸ランジオロールはFontan術後の上室性頻脈のコントロールに有効であった.(2)小児における投与量は不明であるが,3~5μg/kg/minの少量で開始・維持するのが安全と考えられた.(3)心拍数と血圧の連続的な監視が必要であり,投与中止により心拍数の回復が認められた.

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