II-P-77
高肺血流性先天性心疾患の周術期における窒素ガスを用いた低酸素換気療法
長野県立こども病院循環器科1),心臓血管外科2)
井上奈緒1),安河内聰1),瀧聞浄宏1),梶村いちげ1),武井黄太1),田澤星一1),中野裕介1),原田順和2),坂本貴彦2),梅津健太郎2)

【背景】高肺血流型の先天性心疾患(CHD)では肺血流調節のために呼吸管理が非常に重要で,最近では窒素ガスを用いた低酸素換気療法が有効であるといわれている.【目的】肺血流調節目的で新生児期に低酸素換気療法を行った症例について,後方視的に検討し,有効性と問題点について検討すること.【対象と方法】当院で低酸素換気療法を行った新生児期先天性心疾患18例.在胎週数39.3 ± 2.0週,出生体重2,767 ± 484g.疾患の内訳は,左心低形成症候群(3),総動脈幹症(5),大血管転位症(4),その他(4)であった.適応と窒素ガス吸入方法,開始のタイミング,投与中のコントロール指標,結果について調査した.【窒素ガス吸入法】呼吸器回路に微量流量計を用いて窒素ガスを混入し経皮的酸素飽和度SpO2を指標にして管理した.【結果】全例臨床的な合併症はみられなかった.吸入方法は,鼻カヌラ(7),挿管(11)であった.窒素ガス吸入中のFiO2は0.14~0.19であった.投与前高肺血流状態の診断根拠は,心拡大,尿量低下,乳酸値の上昇,高酸素飽和度などに拠った.使用開始日齢は7.6 ± 16.8日,使用期間は3.8 ± 1.9日だった.使用前後で心胸郭比(CTR)は60.6 ± 5.7%から55.3 ± 6.0%に減少し,使用前後の尿量は2.2 ± 2.5から4.4 ± 5.1ml/kg/minに増加,乳酸値は4.3 ± 3.6から2.1 ± 1.7mmol/lに減少し,血圧は安定した.16/18で低酸素換気療法により待機的に開心姑息術または心内修復術が可能で,2 例では高肺血流コントロール後動脈管が閉鎖傾向となり緊急手術を忌避できた.術後低酸素換気療法が原因と考えられる神経学的後遺症や他臓器障害はなかった.【考察と結語】新生児期に高肺血流を示すCHDに対して,SpO2を指標とする低酸素換気療法は肺血流の調節効果が高く全身の血行動態の安定化が速やかに得られ臨床的に有用な方法である.今回の症例では明らかな神経学的後遺症は見られなかったが今後の経過観察と発達評価が必要である.

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