II-P-105
無症候Fontan患者におけるBNPと収縮性,拡張能,負荷状態との関係
埼玉医科大学国際医療センター小児心臓科
中川 良,先崎秀明,岩本洋一,小林俊樹,石戸博隆,葭葉茂樹,竹田津未生,増谷 聡,関  満

【背景】Fontan循環は,正常二心室循環とは異なり,基本的に心室前負荷のかかりにくい状態であり,循環不全に陥る状況は必ずしも心室の負荷を意味せず,Fontan循環におけるBNPの値の意味はいまだ十分理解されたものではない.そこで今回われわれは,心臓カテーテル検査によって得られた詳細な心機能,前負荷,後負荷のデータとBNPとの関係を調べ,Fontan循環におけるBNPの病態生理学的意義を検討した.【方法】心臓カテーテル検査を施行したFontan術後患者33人(lateral tunel 22人,extracardiac 11人)において,通常のカテーテル血行動態検査に加え,下大静脈閉塞中の心室圧断面積関係検査から得られた心室縮性,拡張能,負荷条件,全体的血行動態に関する種々の指標と血中BNPとの関係を検討した.患者のNYHA分類はIが26人,IIが 7 人,小児心不全score(New York University)は 2 点から 9 点(可能最大点18点)であった.【結果】BNP値は,4~60pg/ml(平均15.1 ± 13.0,中央値11.7pg/ml)で,NYHA class間で有意な違いはなかった.さらに心不全scoreとも有意な相関を示さなかった.単変量解析では心機能,負荷条件各指標の中で拡張末期圧(EDP)と心室relaxation time constantのみが有意にBNPと相関を示した.Stepwise regressionではEDPのみが有意にBNP値を規定した(LnBNP = 1.58×EDP + 3.14,r = 0.52,p < 0.05).EDPの値は,NYHA classや心不全scoreと相関はなかった.【考察】今回の検討対象は,比較的良好な生活を営んでいる心不全症状のないもしくは軽いFontan患者であった.このような患者におけるBNP値は,臨床症状や,心室収縮能,後負荷,前負荷とは関係なく,弛緩の影響を含んだEDPのみと有意な相関を示すことから,初期のBNP上昇は,心室のglobalな拡張能の変化を反映していることが示唆される.これら微細な変化が,Fontan循環動態悪化の早期指標になり得るのか今後の検討に値すると考えられる.

閉じる