II-P-130
川崎病発症を契機に診断された肺高血圧症の 1 例
済生会宇都宮病院小児科
高橋 努,小島拓朗,井原正博

症例は 6 歳男児.2 年前に心雑音を指摘され当科受診.心エコーで軽度の三尖弁閉鎖不全を認めたが,肺高血圧は認めずフォロー中止となった.今回川崎病で入院した際,胸骨右縁下部にLevine 3 度の逆流性雑音を聴取し,心エコーで重度の三尖弁閉鎖不全(圧較差105mmHg),三尖弁逸脱,右心系拡大,右室に強度の肉柱形成を認め肺高血圧の存在を疑った.川崎病はガンマグロブリン(2g/kg/日)とアスピリン内服で冠動脈病変なく軽快した.心臓カテーテル検査で肺動脈収縮期圧83mmHg(平均圧44mmHg),肺血管抵抗16単位.肺血流シンチで両側肺野に不均一な血流低下像を認め肺動脈性肺高血圧と診断した.肺高血圧による自覚症状はないが,トラクリアとワーファリン内服を開始した.6 分間歩行は361mから450mになったが,BNPは88.7pg/mlから治療開始後は一時30.9pg/mlまで低下したものの177pg/mlまで再上昇し,トラクリアを 6mg/kg/日まで増量した.エコー所見も改善なく,シルデナフィル追加や心臓カテーテル検査による再評価を予定している.若年者肺高血圧症患者には,このように偶然診断される場合があり,無症状でも早期の治療介入が必要と思われた.また,川崎病に肺高血圧を合併した報告は数例しかなく,本症例も因果関係は不明であり,他疾患に関連するものも考えにくいことから特発性の可能性が高い.一方で川崎病は全身の血管炎であり,血管内皮細胞障害によりNO産生が低下するとの報告があることから,川崎病が肺高血圧の発症を誘導するとすれば,機序としては血管リモデリングが考えられる.単に偶然発見されただけでなく,川崎病の合併症として肺高血圧が発症した可能性や,川崎病が特発性肺高血圧症発症の引き金になった可能性も考えると興味深く,文献的考察も含めて検討する.

閉じる